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「若い娘がどんどん入ってきてもうてね」

 エリアの一角にある店で、笑顔をふりまいている女優・松嶋菜々子似のエミさん(仮名)に話を聞いた。見栄えをよくするためなのか、顔いっぱいにLEDライトの光を浴び、胸元がざっくりと開いたオレンジ色のドレスからのぞく豊満なバストがなまめかしい。

「どうですか? 遊んでいかはります?」

 軒先でのやりとりで“商談”が済むと、玄関で靴を脱ぎ、狭い階段を上って2階に。ふすまを開けると、簡素な布団が一式敷かれ、部屋の端に置かれたちゃぶ台に料金表が掲げられていた。

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「料金は20分で1万1000円。そこから10分ごとに5000円が加算されていくシステムで、ほとんどのお客さんは30分1万6000円のコースを選んでいきますね」

 そう話しながらエミさんが差し出したのは、量販店でまとめ買いしたであろう、手のひらサイズの「柿ピー」とお茶。そうなのだ。ここはあくまで「飲食店」。ぼったくりバーも真っ青の高額なおつまみの代金を支払い、その後に起こることに店は一切関知しないのが、大前提のルールなのだ。

©文藝春秋

 赤い被せガラスをまとった照明が、あちこちに昭和レトロな意匠が施された6帖ほどの畳敷きの部屋を赤く染める。地元出身のエミさんは、この店に籍を置いて「かれこれ7年近くになる」という。おそらく30代後半には達しているであろうエミさんに最近の街の様子について聞くと、苦笑交じりの愚痴が口をついて出た。

「若い娘がどんどん入ってきてもうてね。そっちに流れるお客さんもおって、けっこう難儀してます」

きっかけは隣の花街の摘発

 確かに通りには見るからに20代、なかにはハタチ前ではと思われる若い女性の姿が目立った。「飛田新地などに比べて比較的年齢層が高め」(前出・地元事情通)とされていた松島新地で働く女性たちの顔ぶれは様変わりしているようだった。

 街に変化をもたらした遠因となったのは、2021年11月に起きた、兵庫県尼崎市の花街「かんなみ新地」の一斉閉店だ。

「地元の尼崎市長と兵庫県警尼崎南署長が連名で、かんなみ新地の店舗に対して、風営法に基づき風俗営業をやめるよう求める警告書を発出しました。それを契機に『ちょんの間』として営業を続けていた店が次々と看板を下ろし、働いていた女の子たちも姿を消していったのです」(地元紙記者)

 かんなみ新地からほど近い阪神尼崎駅と松島新地がある九条駅は、阪神なんば線の快速急行に乗ってわずか7分の距離。かんなみ新地で働いていた女性らが、同じ業態の店が集まる松島新地に流れ込むのは自然な流れだった。