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コロナに耐え浄化作戦に怯える花街

 業界内で起きた地殻変動とともに歴史ある花街を呑み込んだのは、「コロナ禍」という大波だった。

「緊急事態宣言が初めて出た2020年の春頃は、一気にお客さんが来なくなり、街がゴーストタウンのようになりましたよ。最近になってようやくお客さんも戻ってきたけど、コロナ前と同じようには営業できませんね」

 そう語るエミさんが働く店ではコロナ以降、客には感染予防対策として“接客”中もマスクの着用を義務づけている。ルールを受け入れる客がほとんどだというが、なかには従来通りのサービスが受けられずに不満をこぼす客もいるのだという。

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「『ほかの店はええのに』と怒って途中で帰ってしまうお客さんもいてます。このへんのお店はほとんど料理組合に入ってるんですけど、組合が営業方針に口を出すことはないんです。だから、ノーマスクでも問題ない店もあるし、うちの店みたいにマスク着用が必須の店もある。そのせいでお客さんが逃げていくこともありますね」

 取材で訪れた数日前には、店のすぐ近くで火災が発生。木造2階建て2棟計約250平方メートルが燃えた。地元警察などの調べでは、火災があったのは12月27日午前11時55分ごろ。出火当時に店の2階を掃除中だった女性従業員が、ストーブなどが置かれた1階から爆発音のような音を聞いている。

©文藝春秋

「現場となった松島新地は狭隘な住宅が密集した地域。木造の古い建物が多く、より広範囲に延焼するおそれもあった。今回の火災をきっかけに、行政が街の抱える防災上のリスクについて目を向け始めるおそれもでてきた」(前出・地元紙記者)

 2025年には、大阪で55年ぶりの国際博覧会が開催される予定だ。日本全国の「ちょんの間」が、大規模な催事をきっかけに姿を消していった。大阪でも1990年の「花の万博」を前にした浄化作戦で、ミナミのソープランド街が一掃された過去があるだけに、花街に生きる人々らの不安は尽きない。

「いつまでここにおれるんやろか」

 別れ際、エミさんは一言こうつぶやいた。