1960年(99分)/東映/4950円(税込)

 内田吐夢監督は戦中に満州に渡り同地で映画製作に挑み、戦後は中国に残留して鉱山労働などに従事、一九五三年にようやく帰国を果たしている。

 そうした経験もあってか、戦後になってからの作品は、戦いや暴力の空しさを描いた作品が多い。特に『血槍富士』『大菩薩峠』『宮本武蔵』など、時代劇においてその特徴は顕著になっている。

 今回取り上げる『酒と女と槍』もそうした作家性が色濃く出ている作品で、これも前回の『どたんば』と同様に昨年十二月に東映ビデオからDVDが発売された。

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 舞台となるのは、豊臣秀吉が太閤として絶対的な権力者に君臨していた時代。秀吉(東野英治郎)の甥の関白秀次(黒川弥太郎)が謀反の疑いにより切腹を命じられるところから物語は始まる。

 槍の名人としてその名を轟かせる富田高定(大友柳太朗)は主君・秀次の後を追って切腹しようとするも、酩酊してその機会を逸してしまう。以来、世捨て人として隠遁生活を送るようになり、平和な暮らしの尊さに浸っていた。

 だが、秀吉の死で状況は一変する。前田家からは腕前を見込まれ仕官のスカウトを受け、兄からは殉死を勧められた。「臆病者になって初めて臆病者の幸せを悟った」そう言って全て断る高定の台詞からは、内田吐夢の強い反戦思想がうかがえる。

 本作が面白いのは、徳川家康と石田三成の人物像だ。たいていの映像作品では、野心家の狸爺=家康VS義に厚い三成、もしくは温かい器量人の家康VS冷たく狭量な三成――といった具合に、「どちらかが善として描かれる場合はもう片方が悪に回る」善悪の二元論で描かれてきた。

 が、本作はそうではない。家康(小沢栄太郎)は狸な策略家、三成(山形勲)は冷酷な為政者。つまり、双方とも「悪」なのだ。しかも、どちらも名悪役俳優が演じているので憎々しいことこの上ない。

 そんな悪なる二人による戦い。それが本作における関ヶ原の戦いの位置づけだ。そこからは「戦いに正義など存在しない」という内田吐夢の想いが真っすぐに伝わってくる。

 そうした中で、高定もまた平穏な暮らしを捨てることになる。槍を折ろうとするも折ることができず、一度手にすると途端に血が騒ぎ出すのだ。そして、「侍の意地」のために二人の女性の真心を踏みにじってしまう――。

 全編を通して大友柳太朗が素晴らしい。豪快な笑いの向こうに哀しさがただよう大友らしさあふれる芝居が、生来の愚直さ故に武辺者としての業から抜け出すことのできない高定の悲劇を痛切に伝えてくるのである。

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