1961年(85分)/東宝/2750円(税込)

 旧作邦画、こと現代劇において、観ていて楽しみなのはその内容だけではない。

 それは、今は失われてしまった光景。都市化、宅地開発、技術の発達、時代の変化――さまざまな事情に応じてもう見られなくなった存在の数々に、ロケーションや舞台設定などを通じて触れることができるのもまた、実に楽しい。

 今回取り上げる川島雄三監督によるラブ・コメディ映画の傑作『特急にっぽん』も、そんな一本といえる。

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 本作の舞台となるのは、「こだま」。といっても東海道新幹線ではなく、「東海道本線の特急」だ。公開されたのは一九六一年。新幹線が開通するのは、まだ三年も先になる時代の映画なのだ。

 この時期、「特急こだま」が東京と大阪を鉄道で結ぶ役割を果たしていた。新幹線ではないため、時間はかかる。東京―大阪間は六時間半。今の倍以上だ。そのため、車内には一車両が丸々レストランという「食堂車」が設けられていた。本作は、現在はほぼ見られなくなったこの「食堂車」を中心に繰り広げられる。

 食堂車でウエイトレスとして働くサヨ子(団令子)は同じくコックとして働く喜一(フランキー堺)にプロポーズをしていた。が、二人で弁当屋を始めたいというサヨ子に対して、喜一はレストランのコックとして身を立てたい夢がある。そのため、サヨ子を想いながらも煮え切らない返事しかできない。そんな喜一にエリート乗務員の今出川(白川由美)が近づいてくる。乗客には、サヨ子の見合い先の母子、今出川のパトロンになろうとする社長もいた。さらには爆弾騒ぎまで――。そんな不穏要素を満載し、特急は東京から大阪へと向かう。

 めまぐるしい車両間移動や狭いスペースを利用したドタバタなど、限定された空間を最大限に駆使した川島雄三の動的な演出に、洗練されたユーモラスな台詞の数々があいまって、作品自体が楽しい。特にサヨ子も今出川も喜一に「大阪駅に着くまでに返事が欲しい」と突きつけてきたことで、場所と時間を限定した舞台設定が存分に活かされ、猥雑な賑やかさの中でサスペンスフルに物語は盛り上がる。

 だが、食堂車を経験したことのない筆者にとっては、その光景を詳細に見られることが何よりも嬉しかった。

 出発前に食堂車で共に朝食をとる従業員。本格的な厨房と、そこで腕を振るう数多くのコック。高級店のように出迎えをするウエイトレス。豪華な装いの車内と、見るからに旨そうな料理の数々。

 何気なく映し出される食堂車の何もかもが、初めて目にするものばかり。そのめくるめく光景に、ときめいた。

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