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《草津町長選挙ルポ》「もう許さない方がいい」「“セカンドレイプの町”と言われても仕方ない」セクハラを告発された現職町長(74)と女性元町議(52)が繰り広げた、批判チラシ飛び交う“温泉街の争い”

《草津町長選挙ルポ》「もう許さない方がいい」「“セカンドレイプの町”と言われても仕方ない」セクハラを告発された現職町長(74)と女性元町議(52)が繰り広げた、批判チラシ飛び交う“温泉街の争い”

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 黒岩氏側も黙ってはいなかった。新井氏陣営の主張に対する反論チラシを作成して反撃を繰り広げた。

「新井氏は事実ではなく、ウソを承知で告訴したことは明白であり、黒岩は逆告訴、『虚偽告訴罪』で前橋地検へ告訴しました。新井氏からの告訴はたった4日で、不起訴となりましたが、黒岩からの虚偽告訴罪は12月20日に受理され、捜査中とのことです。(中略)

黒岩陣営が配布したチラシの一部

 新井氏からの告訴は黒岩にとって『願ったり、叶ったり』で、強く望んでいました。黒岩が告訴した『虚偽告訴罪』は非常に重い罪です。ウソの代償がいかに大きいか、思い知ることになるでしょう」(2022年1月5日付 「町民の皆様へ」より引用)

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 両陣営の折込チラシは回を追うごとにエスカレートし、A3用紙にびっしりと過激な言葉遣いの攻撃と反論が掲載されていたこともあったという。その2人がともに立候補したのが今回の草津町長選挙だった。そこでは日本一の温泉街を真っ二つに割るような「熱戦」が繰り広げられたのだった。

「倫理観のない町長、真実を隠すような人」

 群馬県草津町は人口6000人あまりの小さな町だが、自然湧出量日本一の温泉街として全国的に知られている。街の財源は観光業から入る税収によるところが大きく、今回の選挙でも、コロナ禍にあっていかに町の観光資源を生かしていくかが主要な争点となるはずだった。

 しかし、今回の選挙ではさらに新井氏が立候補したことで、黒岩氏の“セクハラ疑惑”に対する町民の見方が争点の1つとなった。 

 チラシによる「場外乱闘」は選挙直前まで続いていたが、1月20日に告示を迎え、選挙戦が始まると新井候補は意外にも自身の性被害について完全に沈黙を貫いた。1月21日、雪の降りしきる中、郊外での街頭演説を終えた後の新井氏にその理由を聞くと、新井氏は言葉を慎重に選びながら記者の目をじっと見つめてこう答えた。

4選へ向けて街頭演説する黒岩候補 ©文藝春秋

「私が黒岩氏を告発した理由は、倫理観のない町長、真実を隠すような人が町政のトップにいては困ると思ったからです。しかし今回の町長選は、草津町の将来を町民が選ぶもので、政策で戦うべきだと考えています。

 性被害の件については裁判で決着するべきというのが私の基本的な考えで、議会に持ち込むつもりもありませんでした。むしろ性被害の問題を政治の場に持ち込んだのは町長の方なんです」

 性被害のことで町民を巻き込むべきではないと語り、演説では黒岩氏のことを「倫理観のない町長」と呼ぶという。「倫理観のない」という表現には性被害に加え、独断専行で町民の声を聞かないという意味も含めていると語った。