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 7月半ばには12歳以上の約50%がワクチン2回接種を終えた。状況が変化したことで、ワクチン2回接種または72時間以内の陰性証明の「衛生パス」ができ、カフェやレストラン、映画館劇場美術館、長距離列車などで提示しなければならなくなった。東京五輪閉会式でトロカデロ広場のPV会場の群衆が映っていたが、その試行のひとつだった。

 この提示義務はいまもつづいている。だからこそ、「日常生活」が続いているのである。

ワクチンで生まれた「選択的ロックダウン」

 五輪の時に選手たちが世間と隔離された感染の可能性の非常に低い「バブル」をつくっていたが、衛生パスを持っている人たちだけならば、カフェや映画館の中は同じ「バブル」の中になる。これが「衛生パス」の論理であった。

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TGVにのる人の衛生パス検査。背中の丸いマークには「身を守るために行動しよう 列車では みんな責任者」の文字が(筆者撮影)

 しかし、ワクチン接種を完了しても感染するという現実を前に、「衛生パス」は別の論理で説明されるようになった。

 フランス政府はワクチン接種で、重症化や死に至るリスクは大幅に減ると確認されたとみている。だが、未接種者の重症化リスクはかわらない。オミクロン変異株では重症化率が減ったとはいえ、ゼロになったわけではないし、感染力の強さで相殺されてしまう。そこで、「衛生パス」保有者しかアクセスさせないということは、未接種者を守ることになるという理屈になっているのだ。

 また、「衛生パス」によって感染対策と経済活動を両立させる「選択的ロックダウン」が可能になった。夜間外出禁止やロックダウンの目的は「ゼロ・コロナ」ではない。病院の負担を減らし、医療崩壊を防ぐことだ。であるから、重症化リスクの少ないワクチン接種者の行動制限はいらない。彼らを対象に飲食店も映画館劇場も通常営業できる。

 一方未接種者は、カフェもレストランも映画館も長距離旅行もできず、蔓延している地域ではデパートやショッピングセンターにも行けない、まさにロックダウンの時と同じ状態になる。