その話は秘密にしたかったらしく、山根は栄養失調の猿のような顔つきで、急に室内をきょろきょろと見回しはじめた。このとき2号室には、彼と私の2人だけだった。
受給者にたったの3万円、ギリギリの生活
「そんなにたやすく保護を受けることができるのですか?」
「簡単簡単、すごく簡単ですわ。わしのような高齢者だけやのうて、〇〇Sには30代40代の半端者がごろごろしとる。わしも5年間で6回も出入りしたけど、保護を断られたことはいっぺんもおまへん。仕組みはようとわからんけど、あれだけ簡単に出すということは、福祉課の者と裏で繋がっとるんと違いますやろか」
「6回ですか? つぎは7回目ということになりますね」
「はいな。部屋は狭いけど、山谷のドヤよりもよっぽど清潔ですわ。13万9000円もらって3万ちょい手元に残ります。3食付きなので、その金は飲み代やタバコ銭ということになりまんな。それに自立支援センターの寮は6カ月間で追いだされるけど、〇〇Sの場合は10年間住みついとる者もいてますさかい」
「受給者にたったの3万円ですか。それでやっていけます?」
「ぎりぎりなんとか」
管理されないとすぐにお金を使い切ってしまう
生活保護費の大半を巻き上げて雀の涙ほどの金額しか渡さない。あきらかに貧困ビジネスである。けれども山根の好々爺然とした底抜けな笑顔を見ていると責めているようで、口にするのははばかられた。
「でも13万9000円も受給すれば、アパート暮らしだってできますよ」
「楽勝でんがな。そやけど、〇〇Sにおるようなヤツは大金を握ったとたんすぐに酒やギャンブルに走るよって、地道な暮らしはムリですわ。管理されんと部屋代どころか食うものにも困るようになり、あげくの果てに夜逃げするのがオチですわ」
「そういうものですか?」
「はいな。自分のことをちゃんとやれん社会のゴミばかりでっさかい」
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