社会復帰意欲を持つホームレスに支援を行い、ホームレス状態の脱却を促す「自立支援センター」にはさまざまな事情を抱えた人々が集まる。ノンフィクションライターの川上武志氏は自身も保護を求め、自立支援センターに入所。そこでの経験を『ホームレス収容所で暮らしてみた 台東寮218日貧困共同生活』(彩図社)にまとめた。

 ここでは、同書の一部を抜粋し、川上氏が出会った男性の壮絶過ぎる半生、そして今後の人生についての展望について紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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長年警備員の仕事をしていた山根

 7月1日、2号室に60代の新人が入った。台東寮のような環境には慣れているらしく、ものおじする様子がまったく見られない。それどころか寝床と3食にありつけた喜びからか、動きも軽快である。まるで猿のようにちょこまかと動きまわっている。それに口が達者で、アルコールで喉を潰したニュースキャスターみたいに、とにかくよく喋る。

台東寮の居室。畳のベッドが個人用スペースとなるが、文字通り1畳ほどの広さしかない 写真=筆者提供
居室はカーテンで区切られる 写真=筆者提供

「わしは山根といいます。警備員の仕事を長年つづけていましてね。昨年働いていた会社では、賃金がええもんやから夜勤に入っていたんですよ。しかし無理がたたって体を壊してしまい、勤め先をやめることになりました」

 体調がもどっても働こうとせず、パチンコ三昧の暮らしをつづけていたのが失敗だったという。おまけに朝から飲むほどの酒好き。気がついたら5万円程度の家賃さえ払えなくなり、夜逃げ同然でアパートを出た。住み込みの警備員の仕事をJR駅に置いてある求人誌で見つけ、埼玉県草加市に向かった。

悪質な業者からの脱走

「着いたとたん、えらいところに迷いこんだと思いましたよ。宿舎がプレハブなのはええとしても、個室という約束なのにひと部屋4人の雑魚寝で、飯場と同じですわ。それでも翌日から働きだしたのですが、仕事に出ても1日2000円しかもらえない。あげくに経営者はヤクザとわかり、脱走を考えるようになりました。だが敵もさるもので、逃げることができんように夜には宿舎のまわりに土佐犬を放し飼いにしているんですわ」

「タコ部屋で土佐犬やドーベルマンの話はよく耳にしますよ。そこまで抜け目なく逃走を警戒しているのに、悪質な業者のもとから逃げだしたわけですね?」

「ええ、まあ」

「そのつづきを早く教えてくださいよ」

 脱走劇の顛末を知りたくて身を乗りだした。

「まあ、待ってくださいよ。ゆっくり話しますさかい」

 入所時に支給されたマグカップに入ったお茶を山根はごくりと飲み、話を再開した。