結婚した後の「旧姓使用」に法律的な根拠を与えられるか――。いわゆる選択的夫婦別姓をめぐる訴訟の準備が行われている。その原告となった一人が、グループウェア「サイボウズOffice」などを手がけるソフトウェア会社「サイボウズ」の社長・青野慶久氏だ。

 なぜ裁判を起こすことになったのか。サイボウズ本社で青野社長に話を聞いた。

 

―― かなり反響があったそうですね。

 青野 そうなんですよ。たくさん反響をいただいて、こちらがビックリしています。

―― まずは、選択的夫婦別姓について、国を相手に訴訟を起こすことになった経緯をお聞かせください。

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 青野 私が結婚したのは2001年。1997年に創業したサイボウズが2000年に上場しましたので、その翌年ということになります。結婚する際、妻からは「姓を変えたくない」と要望があったので、正直あまり深く考えずに「じゃあ私が変えます」と応じたのがコトの発端でした。戸籍上、私は妻の姓・西端になったのです。それからが本当に大変でした。公的な文書はもちろん、クレジットカードからポイントカードまで、財布の中身は全部書き換え。社内では現在に至るまで「青野」で通していますけど、株主総会では「今日だけ私は西端慶久です」と話すハメになりました。また、当時はまだ株券が電子化されていなかったので、紙の株券の名義変更手数料が約81万円かかりました。信託銀行経由でサイボウズに請求がきて、後でその額を聞いてもうビックリですよ。

 あと、海外に出張する時に、先方が気を利かせて私にホテルを手配してくれることがあって、当たり前ですけど予約名は「青野」。ところが、僕のパスポートは「西端」だから、ホテルのフロントでチェックインしようと思ったら「お前は誰だ」と言われる。自分が「青野慶久」であることがなかなか証明できなくて困り果てました。

「何とかならないかな」と思っていましたが、やっぱりなかなか社会は動かない。この2年ぐらい裏でロビー活動をしていたんですけれども、やはり自民党の中では反発する人も多い。野田聖子総務大臣や河野太郎外務大臣のように、ハッキリと「賛成です」と主張している方もいますが、選挙区の地盤がそこまで磐石ではない方々は、まだまだ表では言いづらい状況のようです。

 今回は、作花知志弁護士が選択的夫婦別姓訴訟を起こしたいとのことで、ご本人からお話をうかがいました。すると、非常にロジカルで、これだったら訴えが認められるんじゃないかと思わせる主張でした。詳しい法律的な裏づけについては作花弁護士のブログ新しい夫婦別姓訴訟と4人の村)をお読みいただきたいのですが、最終的なゴールは戸籍法に〈婚姻により氏を変えた者は、戸籍法上の届出により、旧姓を戸籍法上の氏として用いることができる。〉との条文を追加すること。作花弁護士は原告を探しておられたので、結婚にともなって姓を変えた私が「じゃあ原告をやります」と手を挙げたという経緯です。

 

―― すると、今回の訴訟に関しては、単なるパフォーマンスというよりは、十分に勝算があって起こされたということですか?

 青野 そうですね。何十年も変わらなかった制度が、ついに社会変化を起こす。次の世代には、ちょっとみんな生きやすい社会になるんじゃないかと思っています。