フランスの架空の都市にある米新聞支社が発行する雑誌の編集部を舞台にした『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』。国際問題からグルメまで深掘りした記事で人気を集めていた同誌だが、編集長が急死し、遺言で廃刊が決定。そこで、癖のあるジャーナリストたちがスクープを振り返っていく。本作は雑誌の最終号に収められたコラム集という凝った体裁で、4つの短編が連なるオムニバス風の作品になっている。

 監督はウェス・アンダーソン。音楽を手がけたのは、アカデミー賞作曲賞受賞の『グランド・ブダペスト・ホテル』などで監督と組んできた、アレクサンドル・デスプラだ。

アレクサンドル・デスプラさん

「脚本を読んですぐ『ウェス、これはダダイスト映画なんだね』って言ったんです。話がいきなり飛躍するところがあるので、僕はどんどん楽器をスイッチすることにしました。ダダイストっぽく機械音を使ったと思えば、エリック・サティのようなミニマルなピアノ曲へという具合に。映画の持つ不思議な感じは出したいけれど、同時に繊細でなくてはいけない。彼の映画はディテールにとても凝っているので、それを邪魔しないものを目指したんです」

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 自転車紀行から芸術批評まで様々なテーマを描いている本作。デスプラの手がける作品も『GODZILLA ゴジラ』(2014年)のような大作からアート系まで多岐に渡る。

「それは僕が音楽をすごく愛しているから。音楽って、フル・オーケストラの交響楽からジャズのベース・ソロまで、とても幅が広いでしょう。映画も同じ。特にウェスは実験的な音楽を好むので、とても楽しいですよ。日本が舞台の『犬ヶ島』では和太鼓を使ったし、『ファンタスティック Mr. FOX』の時はミニ・ミニ・オーケストラをやってみたり。今回は、今まで使ったことがない大型の金管楽器チューバで遊んでみました」

 フルート奏者出身のデスプラは多彩かつ多作。60歳にして、世界中の200本近い映像作品のスコアを書いている。しかし、不満もあるという。

「日本の監督とぜひ仕事をしたいんです。信じられないことに、誰も声をかけてくれないんですよ! 僕は日本と日本文化を心から愛しているし、初めてのオペラ『サイレンス』も川端康成の『無言』が原作です。普段飲むのも日本茶で、京都から毎月送ってもらっているほど。こんなに日本映画に向いている作曲家はいないと思いますよ(笑)。大作だけではなく、小規模な映画だってたくさんやっています。アニメも好きですしね。ぜひ連絡をください」

 作曲家の久石譲とは家族ぐるみの親交があり、たびたび来日している。

「実は日本で新型コロナのパンデミックが始まったときも、オペラの公演で横浜にいたんです。旧正月で観光客が多く、ちょっと心配だなと思ったのを覚えています。コロナ禍で生活は少し変えないといけないし、移動も考えないといけない。でも早く日本に戻りたいですね」

Alexandre Desplat/1961年生まれ、フランス出身。20代から作曲家として活動。『真夜中のピアニスト』(05)でベルリン国際映画祭銀熊賞(最優秀音楽賞)、『グランド・ブダペスト・ホテル』(14)と『シェイプ・オブ・ウォーター』(17)ではアカデミー賞作曲賞に輝いた。

INFORMATION

映画『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』
公開中
https://searchlightpictures.jp/movie/french_dispatch.html