2018年、自主製作でありながら、映画界に確かな衝撃を与えた映画『岬の兄妹』。片山慎三監督は、よどみさびれた港町で糊口をしのぐ、脚が不自由な兄と自閉症の妹の性と生を描ききった。
2022年1月21日、その片山監督の商業デビュー映画『さがす』が公開される。描かれるのは、社会の片隅で生きる佐藤二朗演じる原田智と中学生の娘・楓(伊東蒼)、そして「名無し」(清水尋也)の3人の不穏な息づかいだ。
智と楓は大阪の下町に暮らす父娘。智は、あるとき突然姿をくらます。「お父ちゃんな、指名手配中の連続殺人犯見たんや。捕まえたら300万もらえるで」と言い残して。父を捜す楓は日雇いの現場で原田智の名前を見つけ出す。だがそこにいたのは、まったく別の男だった――。
『岬の兄妹』と『さがす』。両作の画には、しめりけと匂いが覆い、ときに痛みも漂う。
「どうすれば観ている人に生々しさ、リアリティを感じてもらえるか。それを意識するからこそ、匂い立ち、痛みを覚える画になったのかもしれません」
3人はそれぞれ何かをさがしている。それを意味するかのようなタイトル「さがす」のロゴは韓国のデザイン会社「propaganda(プロパガンダ)」が生み出した。形は、かなりいびつだ。
「現実に起きた事件でも、犯人はなぜ事件を起こしたのか動機や背景を調べると、本人にとってはふつうでも環境や境遇に左右された果ての出来事ということがありますよね。そこにはアンバランスでいびつな何かがきっと存在している。僕はそういうことに興味があります。だから、作品をとおして正しさや美しさを覆(くつがえ)しているのかもしれません」
いびつなものは“わけあり”などと呼ばれ扱われる。あるいは社会から離れた薄闇で生きる。生きざるをえずに日々をおくる。監督はその彼らをカメラの真ん中に捉えた。
「人間は無意識に、見てはいけないと思っているものや近づかないようにしようと思う場所から距離をおきますよね。僕はそこにカメラを近づけていきたい。テレビでは映せないものを、共感を得ることのできる作品として仕上げることが目標なんです」
だから、劇中、目を背けたくなるような場面もある。しかしそこには誰も逃げられない「今」が切り取られている。
「父親と若者、そして10代の娘。3人の登場人物、それぞれの世代が抱える悩みや感覚から現代が滲み出るよう意識しました。実際の事件をリサーチして脚本に反映していますから、現実に起こり得る出来事にも見えると思います」
『パラサイト 半地下の家族』でオスカーを獲得したポン・ジュノ監督作品で助監督を務め血肉を得た片山監督。学びは今作にも生きている。
「ポン・ジュノ監督は、ジャンルに囚われず、ひとつの作品に笑いやホラーなどいろんな感情を込めて多面的に見せます。形にこだわらず自由に作って、観る人を裏切るんです。人間は、悲しくても笑い、人を傷つけても恍惚とする。そういう複雑な感情のなかに本性が表れるんですよね」
かたやましんぞう/1981年大阪府出身。『母なる証明』(2009/ポン・ジュノ監督)、『苦役列車』(12/山下敦弘監督)、『はなちゃんのみそ汁』(15/阿久根知昭監督)などに助監督として参加。『岬の兄妹』(18)で長編映画監督デビューし日本映画批評家大賞新人監督賞、ヨコハマ映画祭新人監督賞などを受賞した。
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