タイトルからスポ根モノと勘違いされそうな『テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく』(Apple TV+で配信中)。そもそも「破天荒」は誤用の代表例として挙げられる言葉だ。「豪快で大胆」の意で使われがちだが、元々は「誰も成し得なかったことをする」という意味の中国の故事に由来する。本作は昨年、米国テレビ界最高栄誉のエミー賞で新作コメディとして『Glee/グリー』の記録を抜く史上最多20部門にノミネート。作品賞や主演男優賞など七冠に輝いた。

 物語の主人公はアメフトの大学二部リーグで弱小チームを優勝へ導いた米国人コーチ、テッド・ラッソ。彼は畑違いのサッカーチームの監督に招聘される。それはなんと世界最高峰のイングランド・プレミアリーグのチーム。しかし、そこには女性オーナーの思惑が……。彼女は若い女と不倫した元夫への当てつけとして、彼が所有していたこのチームを破滅させるためにテッドを招いたのだ。オフサイドのルールも知らない門外漢は選手や記者、サポーターから総スカン。でも、テッドは飄々とどんな相手にもフランクに接する。彼はサッカーについては素人同然で戦術も人任せ。ジョークを言う以外にやることと言えば皆と話し、互いを尊重し「信じる」ことの大切さを説くだけ。そんな彼が掲げる目標は勝利ではない。

©佐々木健一

「成功とは勝ち負けではない。最高の自分でいられるかだ」

ADVERTISEMENT

 常に勝敗や成績が問われるプロスポーツの世界は、常に結果や利益が求められる現代社会と同じだ。テッド・ラッソが行う“破天荒”とは、そんな世界で苦しむ者を救うことだったのだ。シーズン2ではコメディ色から一転し、テッドの辛い過去が描かれる。

「傷ついている人を放っておかない。人生は辛いから……」

 テッド役のジェイソン・サダイキスの名演が胸に沁みる。本作はサッカーチームを舞台にしながら「心」を巡る問題を真正面から描いた快作だ。

INFORMATION

『テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく』
https://tv.apple.com/jp/show/umc.cmc.vtoh0mn0xn7t3c643xqonfzy