これは一生に一度、見られるかどうかという屈指のドキュメンタリーだ。製作期間17年、全13話にわたって“ある奇怪な事件”の顛末を追った『ザ・ステアケース~階段で何が起きたのか~』(ネットフリックスで配信中)。

「今すぐ来て! 妻が事故にあった! 階段から落ちた」

 2001年、米国ノースカロライナ州の自宅で妻が意識不明だと通報した小説家マイケル・ピーターソン。だが、階段に倒れる妻の周囲には夥しい量の血が……。転落事故とは思えない異様な現場。程なくして彼は妻への殺人容疑で逮捕される。だが、彼は一貫して“事故”であると無実を主張。そこからピーターソン家や弁護団への密着取材が始まり、裁判の評決までを克明に映していく。まず弁護団は法医学者などに血痕が残る現場や妻の頭部の裂傷画像を見せ、科学的な見地から事件か事故かを問う。天井には凶器を使用した際に残る血痕は一切無い。転落時の外出血で喉を詰まらせ、吐血し血飛沫が階段の壁に付いたとも推測できる。また当時、プールサイドにいた夫は助けを呼ぶ妻の声が聞こえないことも実証された。ならば事故で一件落着、とはならない。ここまでが1話目で、ここから本件は混迷を深めていく。容疑者のある秘密と嘘が暴露され、さらに18年前にも容疑者の友人の妻が同じく階段で死亡していた事実が判明する。ならば“事件”なのだろうか……。

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©佐々木健一

 驚くべきは、本作の徹底した“密着ぶり”。全編リアルタイムに撮影したシーンで構成されている。こうした撮影は余程、取材相手との協力関係がなければ難しい。そこには弁護側のメディア戦略という面もあっただろう。しかし、本作で白眉なのは2013年と2018年に配信された追加の5話だ。司法の現実、時間の残酷さ、そして人生の皮肉。それらが凝縮した衝撃の結末に戦慄することだろう。マイケルは最後にこう語る。

「皆が罰を受けた」

INFORMATION

『ザ・ステアケース~階段で何が起きたのか~』
https://www.netflix.com/jp/title/80233441