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「あの夫妻は、死の床の私から名前を盗もうとしている…」伝説のテレビ画家・ボブさんの知られざる「苦悩」

2021/11/30
 

 90年代にNHKのBSで放送していた『ボブの絵画教室』を覚えているだろうか。もじゃもじゃのアフロヘアーとヒゲがトレードマークの画家ボブ・ロスが優しい声で「ね、簡単でしょう?」と視聴者に語りかけながら、写真のように精緻な風景画の油絵を30分足らずで描き上げる。白いキャンバスに見る見るうちに美しい山や森が描かれていく様子はまるで“魔法”を見るかのようだった。米国の公共放送PBSで83年から約10年間にわたって放送されたこの番組は世界中で人気を博し、最近も映画『デッドプール2』(2018年)の予告編でパロディとして引用された。

 そんな“ボブさん”の知られざる苦悩と暗闘を描いたドキュメンタリー映画が、ネットフリックスで独占配信中の『ボブ・ロス:楽しいアクシデント、裏切りと欲』だ。冒頭、ボブの一人息子スティーブが口惜しそうに語る。

「“彼ら”の行為は酷い……」

©佐々木健一

 続けて10名以上の関係者が告訴を恐れ、本作での証言を拒否したことが明かされる。彼らが一様に恐れる相手は、コワルスキー夫妻というボブの長年のビジネスパートナーだ。彼らが所有するボブ・ロス社は「ボブ・ロス」という名の使用権と彼の肖像権を独占し、多くの関連商品を販売している。95年にボブは悪性リンパ腫で52歳の若さで他界したが、死の直前、

「あの夫妻は、死の床の私から名前を盗もうとしている」

 と嘆いていたという。さらに夫妻はなぜかボブの死を隠そうとし、彼の友人や知人にも伝えず、葬儀の参列者はわずか3、40人程度だった。今でも彼の死を知らない人さえいるという。

 ボブ・ロスはなぜ夫妻との関係を続けたのか。彼が犯した“過ち”とは――。

 生前のボブさんが収録中に語った言葉が哀しく響く。

「キャンバス上では私に絶大な権力があります。ここに逃避して自分が望んだ通りの世界を作ることができるんです」

INFORMATION

『ボブ・ロス:楽しいアクシデント、裏切りと欲』
https://www.netflix.com/jp/title/81155081

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