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『重大事態の認定』逃れを狙った市教委による変更

 爽彩さんの親族はこの報告書について、「イジメはなかったという学校の結論に矛盾するものをすべて切り捨てた文書です」と厳しく非難する。また、爽彩さんが「川へ飛び込んだ」自殺未遂事案として当初報告していた市教委が、その後、報告書で「川への駆け下り」、「土手を滑り降りて川に入った」とニュアンスを大きく変化させた点について、いじめ問題に詳しい弁護士はこう語る。

「この表現の変更の狙いは『生命、心身又は財産に(対する)重大な被害』(いじめ防止対策推進法第28条1項第1号)という法律に該当する『重大事態の認定』を逃れようとした点にあったように思います。当初の『飛び込んだ』という言葉から自殺未遂というのは伝わりますが、『駆け下りた』『滑り降りた』からは生命の危険が読み取りにくくなる。そうすると、『生命、身体に対する重大な被害』という要件を満たさなくなるので、重大事態としての認定が難しくなる。そういう意図をもって市教委は表現を変化させていったのではないでしょうか。

©️文藝春秋

“イジメがない”という結論ありきの市教委

 爽彩さんの親族が続ける。

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「親から娘がイジメを受けているのではないかという相談があれば、教職員は少なくとも対処することが当たり前です。疑問形で聞こうが断定形で聞こうが、イジメの認知の端緒としては十分です。被害者本人がはっきりとイジメだと言わない限り、イジメの相談としてすら認めなかったのは、市教委が“イジメがない”という結論ありきで行動していたからではないでしょうか」

廣瀬爽彩さん

 旭川市教育員会に今回明らかになった事実について問い合わせた。爽彩さんへの聞き取りを行ったかについては「第三者機関である旭川市いじめ防止等対策委員会による調査が進められていますので、回答を差し控えさせていただきます」。市教委がイジメと判断しなかった理由については「本事案については、当時旭川市教育委員会で把握していた事案の発生の経緯や生徒同士の関係性等に関する情報から、いじめの認知には至っておらず、そうした判断やその後の対応を含め、現在、旭川市いじめ防止等対策委員会による調査が進められているところであり、その結果を真摯に受け止めてまいります」と回答があった。

 14歳の少女が氷点下の夜に姿を消した日からまもなく1年。爽彩さんの命が危ぶまれるサインは何度も出ていたが、最後まで見て見ぬふりをした学校の責任は重い。

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 中学2年の少女を死に追いやったのは、誰か?

 凄惨なイジメの実態、不可解な学校の対応――。遺族・加害者・関係者に徹底取材した文春オンラインの報道は全国的な反響を呼び、ついに第三者委員会の再調査が決定。北の大地を揺るがした同時進行ドキュメントが「娘の遺体は凍っていた 旭川女子中学生イジメ凍死事件」として書籍化。母の手記「爽彩へ」を収録。

娘の遺体は凍っていた 旭川女子中学生イジメ凍死事件

文春オンライン特集班

文藝春秋

2021年9月10日 発売

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。