「旭川市教育委員会が道教委に提出した報告書には、イジメ対策の基本である被害者からの聞き取りが全くできておらず、その後、道教委から聞き取りができていない問題を指摘されてもなお、学校や市教委はその姿勢を改めなかったことが書かれていました。これは異常と言うほかありません。加害者側の言い分だけをもって『イジメ』の事実を否定し、爽彩(さあや)さんが受けた被害を隠蔽したといえます。学校はイジメによる自殺未遂、不登校が重大事態に該当することは明白にもかかわらず、最後まで認定せずに逃げ切ろうとしたのです」
文春オンラインの取材にこう語るのは、昨年3月に北海道旭川市内の公園で凍った状態で発見された当時中学2年生の廣瀬爽彩さんの遺族の代理人弁護士だ。(#1から読む)
発足から10カ月が経っても中間報告すらない第三者委員会
文春オンラインでは、2021年4月からこれまでに、爽彩さんが中学校入学直後から凄惨なイジメを受けていたこと、失踪直前までそのイジメによるPTSDに悩まされていた事実などを報じてきた。これらの報道を受けて、同年4月、旭川市教育委員会は爽彩さんがイジメで重大な被害を受けた疑いがあるとして本件を「重大事態」と認定。昨年5月に設置された第三者委員会では、イジメの有無と爽彩さんが亡くなったこととの因果関係、当時の学校、市教委の対応に問題がなかったかなどについて再調査を進めているが、委員会発足から10カ月が経った現在も中間報告すらされていない。
2022年1月20日、旭川市の今津寛介市長は臨時市議会で、進まぬ第三者委員会の調査に異例の勧告を行った。全国紙社会部記者が説明する。
「今津市長は今年6月までに最終報告をしなければ、独自に自らが主導する調査を実施することを明らかにした。当初、第三者委員会は昨年11月末までに調査結果をまとめるとしていたが、1000ページ以上の資料の読み込みや関係生徒への聞き取りが遅れ、11月の報告は白紙となった。昨年10月に今津市長が新市長に就任した際、『中間報告は10月中に行っていただきたい。最終報告は遅くても年度内。スピード感をもって進めてほしい』と苦言を呈していたが、遺族が要望していた、爽彩さんが失踪して1年となる2月13日どころか、年度内での報告も困難な状況となっている」
学校はなぜ「イジメはなかった」という立場を貫いたのか?
一向に進まぬ「第三者委員会」の調査に不信感が渦巻いているが、そもそもなぜ学校は爽彩さんが2019年6月に地元のウッペツ川に飛び込み、その後長期入院を強いられるようになった時期から彼女が失踪するまで「イジメはなかった」という立場を貫いたのか。もし、学校側がイジメに対して、適切な対応を取っていれば、事件は別の結末を迎える可能性もあったのではないだろうか。
今回、文春オンライン取材班は道教委が市教委から受けた「爽彩さんのイジメの件についての報告」をまとめたA4用紙およそ50枚からなる公文書を入手した(2019年9月から2021年5月までの記録)。同文書を分析すると、2019年6月に爽彩さんがウッペツ川に飛び込んだ事件などについて、当初は「自殺未遂案件」と認識していた学校と市教委が、加害者と教職員の証言のみで爽彩さんの事件を「イジメではなかった」と断定するまでの過程が浮かび上がってきた。