弁護士からミミ子へ/離婚調停を申し立てることは、非常に難しい
離婚届を役所に提出し受理されれば、離婚届に書いた通りの内容で、離婚した事実が戸籍に反映されます。しかし、あくまでもそれは、その離婚届を夫婦ふたりが離婚することに合意した上で、真正なものとして作成したことが前提です。今回のミミ子さんのように、相手方の男性の了解もなく勝手に名前を書き込んだ離婚届は、法律が想定する離婚の届出とはいえず、偽造の離婚届であり無効です。
ただ役所の実務として、提出された離婚届について、今のところ本人の意思確認や本人の筆跡確認はしていません。そのため自分の意思によらない離婚届が出される恐れがある人は、役所にあらかじめ、「もし私の名前の離婚届が出されても、受理しないでください」という離婚届不受理申出をする必要があります。
この離婚届不受理申出がされていなければ、実際のところ、ミミ子さんのような偽造の離婚届を役所の窓口で阻止することは困難です。そのため離婚届が提出されてしまうと、ほとんどの場合は、その離婚届に書かれた内容のまま、離婚の事実が戸籍に記載されます。外から見ると有効な離婚が成立したようになります。
ミミ子さんが提出した離婚届も新宿区役所で受理されれば、その内容で戸籍には離婚が成立したと記載されます。しかし、偽造の離婚届による無効な離婚です。もし、相手の男性が、「こんな離婚届を俺は書いていない」「俺は離婚する意思がない」と、離婚無効の訴えを裁判所に起こした場合、ミミ子さんは敗訴して離婚がなかったことになります。
また離婚届を偽造して提出したことについて、ミミ子さんは有印私文書偽造の罪、電磁的公正証書原本不実記録の罪で刑事罰に問われる可能性もあります。
ただ、ミミ子さんのように結婚生活の事情から逃げるように飛び出して息も絶え絶え暮らしている人にとって、連絡を取ることすらしんどくなるような相手に、離婚届による協議離婚を真正面から持ちかけるのは難しいでしょう。また、話し合いに行き、相手から暴力を振るわれるという危険を考えると、問題がある相手であればあるほど、話し合いによる協議離婚の成立は難しいというのが実情です。
協議離婚ができないとなると、離婚を求める側は裁判所に離婚調停を申し立てることになります。ただ、離婚調停の申し立て先は、離婚を求められる側の住所の裁判所が原則です。ミミ子さんの場合は、新宿区を管轄する東京の霞が関にある東京家庭裁判所に離婚調停の申し立てをすることになります。ミミ子さんが、東京の裁判所に自分で離婚調停を申し立てることは、非常に難しいと想像できます。弁護士に依頼するにしてもお金がかかります。
福岡のミミ子と夫のアパートに、新宿区役所から離婚届が返送されてきた。ミミ子が左手で書いた男の署名が偽物であるとバレたのではなく、新宿区役所側が受理できないほど間違いだらけで、送り返されてきたのだ。返送された郵便を受け取ったのは今の夫だった。