夫婦間の理想的な性生活のあり方は人によってさまざまだ。それだけに、一方が性行為に嫌悪感を抱くことも決しておかしなこととはいえない。しかし、離婚・男女問題をはじめとした家事事件を多く取り扱う弁護士の南和行氏によると、「結婚した夫婦が夜の生活をするのは『当たり前』なのに、それを苦手だとか気持ち悪いだとか思う自分のほうがおかしいのでは」と思い悩む人も少なくないのだという。

 ここでは、同氏の著書『夫婦をやめたい 離婚する妻、離婚はしない妻』(集英社)の一部を抜粋。69歳になった夫から体を求められることに嫌悪感を抱き、「離婚」が頭をよぎりはじめた女性・クス子さん(仮名)について紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

©iStock.com

◆◆◆

ADVERTISEMENT

「夜の生活」を求め続ける、老齢の夫への嫌悪

 カバン工場の製品梱包のパートとして働く63 歳。長男、長女は成人し家を出て、定年退職した6歳上の夫とのふたり暮らし。これまでの生活に大きな不満はないが、今でも月に数回求められる夫との夜の生活に苦痛を感じている。一緒に寝ると思うだけで心がこわばり、夫が気持ち悪い存在でしかなくなっている。そんなとき「離婚できたら」という言葉が頭に思い浮かぶようになる。

 クス子は63歳。6歳上の夫は、65歳で会社を退職してから、約4年ずっと家にいる。夫にはこれといった趣味はないが、本を読んだり、図書館に出かけたり、自分の好きなことに時間を使っている。

 クス子はというと、子供たちが手を離れた40代の後半から近所の人に誘われてカバン工場の製品梱包のパートを始め、今も働いている。定年は特に決まっていないが、一緒に働く主婦の多くは65歳でパートを辞める。それまでにクス子はあと2年ある。

 クス子は21歳で夫と結婚した。母方の叔父が取引先の会社で働いている東北出身の夫をクス子の両親に紹介し、食事会のようなものを経て結婚が決まった。正式な仲人はいなかったが、見合い結婚だと思っている。結納金がどうだったのかは親任せで覚えていないが、神社で挙げた結婚式や中華レストランでの披露宴の費用は、夫の両親が出したと記憶している。

 夫の実家は東北の水産物加工の工場を経営し、そこは夫の長兄と次兄が継いでいて、夫の両親の面倒は兄たちが見てくれていた。子供たちの入学や卒業、そして結婚という節目では夫の両親はクス子たちの家まで来てくれたが、三男坊であるクス子の夫は、結婚したあとも盆暮れ正月にクス子や子供たちを連れて実家に帰るだけだった。

 クス子は結婚して2年目で長男、4年目で長女を産んだ。長男は大学卒業後、就職して家を出て転勤族になったので家に帰る様子はない。長女は短大を出たあと家から勤めに出ていたが、夫が定年退職した年に、自分で見つけた相手との結婚のため家を出た。長女が家を出てからクス子は夫とのふたり暮らしとなった。

 クス子には苦手なことがある。夫との夜の生活だ。夫は今でも月に数回、夜の生活を求めてくる。クス子は、その短い時間、目を閉じて時間が過ぎるのを待つ。暴力を振るわれるわけでもない。身体を痛くされるわけでもない。それでもクス子は夫の身体が自分の肌に触れる感触を気持ち悪いと感じる。結婚した頃は、子供を作るためにはしなければならないと思い、夫のする通りにした。ただ夫は子供が生まれたあともクス子に夜の生活を求めてくる。クス子は若いうちは男の人はそういうものだろうと考えていた。いつか夫も中年になりそういうことをしない年齢になると思い、終わりの時期を待っていたのだ。ところが50代になっても、60代になっても夫は変わらなかった。