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弁護士からミミ子へ/「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する」という規定

 民法772条1項には「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する」という規定があります。「推定」と言うと軽く聞こえますが、これは反対の事実を証明しない限りその通りに決められるという強い「推定」です。

 ミミ子さんは、20歳のときに婚姻届を出した男性と離婚が成立していない、「婚姻中」の状態であり、その間に妊娠、つまり懐胎したので、この民法772条により生まれた子供の父親は、結婚相手の男性と推定されるのです。

 しかし、実際に、ミミ子さんが産んだ赤ちゃんの父親が、福岡で一緒に暮らしている夫さんであることは、ミミ子さんも夫さんも知っていることです。ミミ子さんの結婚相手の男性も、ミミ子さんが福岡で産んだ赤ちゃんの父親が自分でないことは百も承知のはずなので、法律で「あなたの子供」となると言われても、かえって困惑するでしょう。

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 それならやっぱり、赤ちゃんが生まれる前になんとしてでも新宿区役所に離婚届を出しておくべきだった……と思いがちですが、そうでもありません。民法772条2項が「婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する」と規定しています。離婚、つまり婚姻の解消から300日以内に生まれた子は、婚姻中に妊娠したと推定され、772条の1項と相まって、結局その子の父親は戸籍上の夫だと推定されるのです。

 妊娠に気づいてから何らかの形で離婚を成立させたとしても、妊娠前の最終月経開始日からおよそ280日後を出産予定日と算定するように、妊娠に気づいている時点で、離婚成立から300日以内には赤ちゃんが生まれるのが通常です。ですから、ミミ子さんも戸籍上の夫の名前を勝手に書いた離婚届が、仮にあのとき新宿区役所に受理されていたとしても、赤ちゃんの出生届を出せないことには変わりがなかったのです。

 ミミ子と夫は子供に「望(のぞむ)」と名付けたが、この名前は、ふたりの間で付けただけで、出生届はまだ出せていない。この赤ちゃんがミミ子と夫の子供であること、望という名前であることを表す書類はどこにもない。ミミ子と夫には、もうどうしたらいいのかわからなかった。