例えばまなつの故郷を訪れて地元の人と交流したり、友人の願いを叶えるために流星群を見る会を実現したり、夢見ていたモデル業を体験するチャンスを得たもののその道には進まないと決断したり 。自分たちが 「やりたい」ことを実現するためには準備が必要だったり、そもそも「やりたい」ことが決まっていないキャラクターもいました。共通する点としては、「やりたい」ことを見つけ、実際にやるのは簡単ではなく、内心に葛藤を抱えることです。
この「vs.自己決定の難しさ」路線は、実はプリキュアシリーズの中で何度か登場してきたテーマですが、<vs.社会の抑圧>と比べると、大人の世界で話題になることは比較的少なかったと言えます。
しかし、実は近年のプリキュアシリーズは概ね交互に<vs.社会の抑圧>と<vs.自己決定の難しさ>を扱って来たのです。
「男の子」がプリキュアに変身するわかりやすさ
近年の作品を例にとって見ていきましょう。
2018年に放送が開始された『HUGっと』は、子育てがモチーフの作品であり、敵組織のモチーフはブラック企業でした。(作中では「敵」と明言されてはいないのですが、構造を説明するために便宜上このように表します)
「男の子」と記載された登場人物「若宮アンリ」がプリキュアに変身するシーンはファンの枠を超えて大きな話題になりました。アンリはこの話題の追い風もあり、2019年にNHKが募集した『全プリキュア大投票』では「キャラクター」部門で歴代12位の高順位を記録しています。
ブラック企業やジェンダー多様性の観点は明確に現代社会のテーマであり、“敵”の存在がわかりやすく、大人の話題になりやすい内容でした。
また、2020年放送開始の『ヒーリングっど♥プリキュア』(以下『ヒーリングっど』)は医療をモチーフにしたデザインでしたが、終盤で敵キャラクターがピンチに陥って主人公に助けを求めたのを主人公が拒否したことが視聴者に衝撃を与えました。「治癒を行う者は寛大な心で困っている人を助けるべき」という一般的な固定概念をはねのけたところに、女性とケアの問題への目配せがあったと言えるでしょう。