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『アラモード』は「大好きでつながる」を謳い、料理に込める愛情の重要性を説きました。主人公たちが周囲に期待された社会的役割に苦しんだり、主人公たちを抑圧する役割を担う敵が登場する訳ではありません。

 宇宙を主題に自分の感覚・感情を信じる大切さを描いた『スタートゥインクル』の柳川あかりプロデューサーはテーマについて「豊かなイマジネーションで物事に向き合い、自分の目で確かめ、自分の頭で考え、自分で判断することの大切さ」と答えています(記事)。

主人公たちが宇宙を回って自分の目で確かめ、自分の心で判断した経験が運命を決めました『スター☆トゥインクルプリキュア』第48話 公式サイトより

『トロピカル~ジュ』は、これらの<vs.自己決定の難しさ> シリーズに連なる作品であり、プリキュアの本流の1つであると考えます。

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「抑圧されるプリキュア、抑圧する敵」という対立

 <vs.社会の抑圧> をモチーフにした場合、作品内には「抑圧される主人公たちプリキュアと、抑圧する敵側」という二項対立が生まれます。また、すでに社会で問題になっているテーマを扱うことになり、どうしても既存の文脈に囚われてしまいがちです。実際に制作に携わった人たちの考えをすべて想像することはできませんが、視聴者はどうしても既存の社会問題を完全に忘れることはできないからです。

 一方で <vs.自己決定の難しさ> を描いた作品にはこうした束縛がないため、視聴者が自由に感想を論じやすくなります。

 逆説的ですが、<vs.自己決定の難しさ> を描いた作品の方が、<vs.社会の抑圧>からの自由という主題を実現しているとさえ言えるかもしれません。

 社会問題の議論に結びつけてプリキュアを見るのは、もちろん1つの見方であり固有の楽しさがあるでしょう。ただ抑圧者ではなく、自分で選択し決断すること自体の難しさという主題もまた、プリキュアに受け継がれる面白さの真髄の1つなのです。

 そして長いプリキュアシリーズの中には、<vs.社会の抑圧>と<vs.自己決定の難しさ>というテーマを両立しているものがあります。

 たとえば2013年の『ドキドキ!プリキュア』や2015年の『Go!プリンセスプリキュア』では、 2つのテーマが綺麗に融合していたと感じます。

 これらは『HUGっと』などよりも少し前の作品になります。もしかしたら制作陣は、以前から大切にしていた <vs.社会の抑圧>と<vs.自己決定の難しさ> という2つのテーマを、近年は意図的に分離してより精密に描こうという意志を持っているのかもしれません。

2022年2月6日にスタートした『デリシャスパーティ プリキュア』 公式サイトより

 2月6日に始まった新シリーズ『デリシャスパーティ プリキュア』は食事・料理をモチーフにしています。本文で述べた交互の法則で言えば今年は <vs.社会の抑圧> を描いた作品になる可能性がありますが、かつて料理を描いた『アラモード』のように <vs.自己決定の難しさ> 路線への道も見えます。

 プリキュアはスタートからは想像できない場所へ1年かけて着地することも多いシリーズです。『デリシャスパーティ』も、これからの展開を楽しみに視聴者として1年を過ごせそうです。