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広島マツダがお好み焼き、HISがそば、ロート製薬がカフェ…相次ぐ「ナゾの異業種参入」成否を分ける“3つの条件”

2022/02/17
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 一方、自動車は生活に密着したものであり、なくてはならない地域ビジネスだ。「地元VS観光客」という相反する客層の新規参入に帯する辛辣な見方は、受け止め方によっては「観光客よりも広島県民のほうにもっと目を向けて欲しい」という地元の人の気持ちの表れとも解釈できる。

 広島は自動車メーカーのマツダのお膝元であり、マツダは広島カープのメインスポンサーでもある。地元で昔から愛されている企業だからこそ、マツダの販売店の異業種への参入は、「本業の自動車ディーラーは大丈夫なのか?」と思わせてしまったところは大いにある。

©iStock.com

 既存客をそのような思いにさせないためにも、企業の情報発信は必要不可欠である。異業種への参入を丁寧にSNSや動画で発信し、買収した企業への取り組みの途中経過を、ネットを通じてファン客に伝えるプロセスが求められる。

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 本業とのシナジー効果も理解してもらった上で、既存客に安心してもらい、新しい事業でも同じようにファンになってもらう仕組みを作らなくてはいけない。そうすれば、多くの既存客を巻き込んで、新規事業はスピーディに軌道に乗せることができるようになる。

 広島マツダのお好み焼き屋の買収に関しては、今後、どのような情報発信をしていくか分からないが、多くの地元客に愛されている2社であるからこそ、理解を深めるきめ細かい情報発信が今後は期待される。

本業とかけ離れたことをするなら…

 コロナという未曾有の災害で、経営者は事業の集中が大きなリスクになることを知った。そのリスクを回避するために、コロナ禍に多くの企業が異業種への参入を試みたが、ほとんどの新規事業がうまくいっていないのが現状である。

 経営が健全ではない状態での新規事業は、経営者にもスタッフにも大きなストレスになる。心に余裕がないので、事業は軌道に乗りにくい。非常事態宣言などのイレギュラーな出来事が立て続けに起こるため、マーケティングの戦略も組み立てづらい。

 特に補助金や助成金でスタートさせたネット通販事業に関しては、リスクを背負って始めた新規ビジネスではないので、経営者やスタッフの本気度が足りなくなる。ホームページ制作会社に店舗設計や運営を丸投げにしてしまい、自分たちでノウハウを学ぶ覚悟がないので、いつまで経っても売上の低迷状態が続いてしまう。

 異業種への参入は仕組みやビジネスモデルよりも、経営者やスタッフの情熱のほうが大切である。アフターコロナに向けて、多くの企業が「次の一手」に向けて動き出そうとしている中、その一手が本業と掛け離れれば離れるほど、「思い」がなければ成功しないということは、理解しておいたほうがいいだろう。

M&A事例は、M&A需要動向調査(https://batonz.jp/learn/7299/)より筆者が作成

広島マツダがお好み焼き、HISがそば、ロート製薬がカフェ…相次ぐ「ナゾの異業種参入」成否を分ける“3つの条件”

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