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3場所合計33勝はメディア側の目安に過ぎない

 大関昇進に際しては、横綱審議委員会(横審)という外部有識者による諮問機関が決定過程の鍵を握る横綱昇進とは違う。「2場所連続優勝か、それに準ずる成績」という横審推薦内規もない。「昇進直近3場所合計33勝」はいつのまにか定着したメディア側による目安に過ぎない。大関への道は全て相撲協会の主導によって進められる。

©JMPA

 その端緒となるのは、毎場所の番付を編成する審判部だ。1枚、1段の番付を昇降させるのと同じように、関脇から大関へと上げるのも番付編成上の作業。ただ角界の看板に関わるテーマだけに、一つの部署の判断で即決定というわけにはいかない。毎場所の千秋楽から3日後の水曜日に開かれる番付編成会議での最終確認に続き「●●を大関に昇進させていいでしょうか」とのお伺いを相撲協会の最高意思決定機関である理事会に諮る必要があり、その場で承認されれば正式に決まる。

 ちなみに横審に推薦された大関の横綱昇進でもこの手順は欠かせない。つまりは審判部が動き始めなければ事は何も起きず、協会トップの理事長も自らが番付編成と昇進問題を一任した部署による昇進案件の臨時理事会開催要請を拒否することは想定していない。だから受諾した時点で事実上のゴール。今まで理事会で昇進への結論が覆った例は一度もなく、理事長が理事会開催要請を断ったことも聞いたことがない。

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御嶽海と照ノ富士 ©JMPA

唯一無二の原動力は「ムード」

 大関誕生へ唯一無二の原動力は「ムード」だ。力士自身が駆け上がっていく雰囲気、勢いのある取り口を身にまとい、周囲の状況などを味方にしながら波に乗っていく。初場所の御嶽海は初日から8連勝と全勝で折り返したところから「優勝すれば上がるのでは」との声が相撲記者の間からじわじわと浮上し、各紙の記事は前掛かりになっていく。11日目に三役で初めて2場所連続2桁勝利を挙げると、審判部を中心に親方サイドからも同じような発言が相次いだ。関係者によると、14日目の朝に御嶽海が所属する出羽海一門の審判委員が部内の親方衆に「優勝、もしくは今日勝って12勝でどうか」と感触を確認。大多数の賛成により、ふつふつと沸いていた昇進ムードが一気に沸騰する。主役は降って湧いた絶好機を逃さず、残り2番の白星と大願をつかみ取った。