「助けて! 助けて! みんな!」
「入れ! 制圧するから」
顔にモザイクがかかった黒っぽい制服を着た男たちが7人がかりで外国人男性を冷たそうな床に押さえ込む。パンツ1枚で叫び声をあげているのは、入国管理センターの職員から暴行を受けるデニズさんの姿だ。
「はい制圧!」「ワッパかけろ!」と大声を出しながら、職員たちは後ろ手に手錠をかけられたデニズさんを、仰向けにしたりうつぶせにしたりしながら押さえ続ける。1人が首をロックし、他の1人が片手でデニズさんの顎をグイと掴み、もう一方の手で拳を作り、グリグリとデニズさんの顎下に押し当てる。
「空気入らない! あなたたち、殺してるよ! やめて…首痛い、首痛い!」
デニズさんは日本語で必死に叫び続ける。
うつ病の収容者に「こんな人生もういらない」と言わせる
これはドキュメンタリー映画『牛久』(トーマス・アッシュ監督)にも収録されている、入国管理局側が撮影していた衝撃的な映像だ。昨年、スリランカ出身のウィシュマさんが死亡した事件でも注目を浴びた入国管理局の深い闇。これらは日本国内で起きている現実の出来事だ。
この映画には、茨城県牛久市にある「東日本入国管理センター」に、当時収容されていた9人の肉声も収められている。本作の監督トーマス・アッシュ氏は面会に訪れては、入管側に伏せながら彼らの証言を記録。「まるで刑務所」「口外しないように殺されるんじゃないか心配で」「体じゅう殴られた」「こんな人生もういらない」。苦しそうな声で語られる彼らの日常が、入国管理行政の問題を浮き彫りにする。
日本国内には、在留資格のない人、更新が認められず国外退去を命じられた外国人を“不法滞在者”として強制的に収容している施設が17カ所ある。その一つが「東日本入国管理センター」通称“牛久”だ。ここには、紛争や戦争により自国に帰れず、難民申請をしている人が多くいるが、その認定率はわずか0.4%(2019年)と極端に低い。そして収容されている多くの人が、不当な扱いや理不尽な暴力に苦しみ続けている。しかし、彼らの声を施設の外に届ける機会はほとんどない。
2月26日より劇場公開となったドキュメンタリー映画『牛久』。数々の難関をくぐり抜けこの作品を撮った監督、トーマス・アッシュ氏にインタビューを行った。