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「空気入らない! やめて…首痛い、首痛い!」入国管理センター“牛久”に収容された外国人9人の絶望をカメラが記録するまで

ドキュメンタリー映画『牛久』トーマス・アッシュ監督インタビュー

2022/02/26
note

人間は自分で稼ぎ、生活をしたいと思うのが当然

――本作を公開する運びでの難関はありませんでしたか?

トーマス 作品を撮り終え、やがてこの9人も仮放免されました。彼らの言葉を借りると9人とも「コロナのおかげで出ることができた」のです。それで、映像を本人に見てもらって改めて、公開に同意できるか確認を取りました。声を上げることによって、何かよくないことが起こるかもしれませんから。

 ただ現在、入管や政府から正式文書による公開禁止などを求める連絡は来ていません。そして私たちは声を上げること、語ることの自由を信じています。

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映画『牛久』より ©Thomas Ash 2021

――コロナがきっかけでたくさんの人が仮放免されたのですね。

トーマス 仮放免された理由がコロナだと明言されているわけではありません。でもこの時期になって急に多くの人が仮放免されました。

 しかし“牛久”を出られても、彼らは自力では暮らしていけません。仕事も保険もないし、病院にも行けない。だから問題が解決したわけではないのです。人間はみんな自分で稼ぎ、生活をしたいと思うのが普通なんですから。

当事者9人の肉声を聞きに、その表情を見に来て欲しい

――これから作品を観ようかと考えている人にメッセージをお願いします。

トーマス つらいけれど、これはあなたの国の中で実際に起きていること。この現実を知るべきだと思います。祖国で危険な目に遭い、守って欲しくて逃げてきた人たちが「助けてください」と叫んでいるのに、こんな状況にされている。そのことを知ってもらいたい。当事者が自分の肉声で訴える言葉を聞きに、表情を見に来て欲しい。

 難民の問題が自分に関係ないと考える日本人もいると思うんですけど、例えば、これは2011年に福島の原発から避難した人とも状況が似ています。逃げなければならなかった子どもたちは、避難先で「あなたは汚染されている」といじめられました(トーマス・アッシュ監督は福島のドキュメンタリー映画『A2-B-C』〈2013〉も撮っている)。これらはそんなに遠い問題じゃないんです。

ドキュメンタリー映画『牛久』予告編

 私はこの問題を簡単に整理したくない。これを観て、苦しくなって悲しくなって、一晩眠れないくらいの気持ちになるのが普通だと思います。そして「これは問題だ」「もっと知りたい、もっと調べたい」と感じ、行動するきっかけになればいい。自分に何ができるか、と考えることが大事。一緒にボランティア活動をしたり寄付をしたり、もっと言えば、友人や近所の人に「この問題知ってる?」と話すだけでもいい。行動したくなったら、大きいことじゃなくても、小さいことからできることをすればいいと思います。

INFORMATION

ドキュメンタリー映画『牛久』

2022年​2月26日(土)より
シアター・イメージフォーラム
MOVIXつくば ほか全国順次公開

公式HP
監督:トーマス・アッシュ
©Thomas Ash 2021

「空気入らない! やめて…首痛い、首痛い!」入国管理センター“牛久”に収容された外国人9人の絶望をカメラが記録するまで

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