中国人のサッカー好きは有名で、ワールドカップや欧州チャンピオンズリーグ決勝などのビッグイベントには徹夜観戦組が中国全土に続出するほどだ。しかし、中国サッカーのレベルは低く、中国代表の戦績は国民を失望させている。そこで、学校スポーツという広い裾野から欧州でも活躍する選手を数多く輩出している日本に学ぶべく改革が行われた。サッカー特色学校は2015年の5000校から、2025年には5万校にまで拡大するというから、その力の入れようは尋常ではない。
しかし、なぜサッカーだけなのかという疑問もある。同じく人気スポーツのバスケットボールにも特色学校はあるが、その数は2020年で2796校と1桁少ない。実は習近平国家主席は大のサッカーファンとして知られている。2011年には「中国代表がワールドカップに出場すること、中国がワールドカップを開催すること、そして、いつの日かワールドカップで優勝すること、これが私の望みだ」との言葉を残している。
サッカー好きの総書記が誕生し、歓心を買おうと、中国サッカーには強い追い風が吹いた。デフォルト危機で世界を騒がしている恒大集団は、世界の名監督、名選手を買いあさった金満チームを作り上げ、一躍有名企業の仲間入りを果たした。その成功を見て、他の不動産企業も続々とサッカークラブ経営に進出し、中国プロサッカーは不動産リーグと呼ばれるような状況を呈した。なお、この1年あまりの不動産危機によって多くのクラブが人員整理、身売りに追い込まれている。
そうしたゴマスリは下々にまで共通しているようで、バスケットコートをサッカー場に改装した学校も多々あったという。こう見ると、なぜサッカー特色学校だけがやたらと増加しているのか、理解できるのではないか。
体育強国による学習塾規制
昨年7月に実施された学習塾規制も、体育強国とつながっている。学習塾は非営利化しなければ存続を許さないという厳しい規制で、倒産した企業も多い。職を失った塾講師や事務員の数は10万人を超えるという。この規制には「放課後帰宅した後は宿題や勉強のほか、家事やスポーツ、読書、芸術に取り組ませよ。がんばっても宿題が終わらない子どもも、時間になったら睡眠をとらせよ」という一節まであるほどだ。
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ジャーナリストの高口康太氏による「北京五輪のグロテスク」の全文は、「文藝春秋」3月号と「文藝春秋 電子版」に掲載されています。
北京五輪のグロテスク