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北京五輪のグロテスク メダル至上主義から「体育強国」へ〈“デジタル監視”に米五輪委は使い捨て携帯電話を推奨〉

2022/02/20
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 なぜ、中国政府はここまで監視を強化しているのか。不思議にも思えるが、これこそが中国流だ。市民を監視して反政府勢力を潰すだけではない。さまざまな手法で市民の日常生活に干渉し、「より良き社会」を築くこと――中国共産党は長年にわたり、この取り組みを続けてきた。民主主義陣営からは異様に見えるこれらの施策は、中国共産党の統治技術のほんの一部にすぎないのだ。

メダル至上主義から「体育強国」へ

 中国にとって五輪といえば、幼少期から選抜された体育エリートを徹底的に鍛え上げてメダル獲得に血道を上げ、国家の威信を示す政治的な場であった。だが近年、そこに変化が生じてきている。

「文化強国、教育強国、人材強国、体育強国、健康中国を建設する」

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 中国政府の中長期計画である「2035年遠景目標」の一節だ。経済成長や科学技術の発展とならんで、体育強国と健康中国が目指すべき目標とされている。今後5年間で平均寿命を1歳延ばすことなど、健康や体育に関する介入を強めている。

北京冬季五輪を盛り上げるため、中国新疆ウイグル自治区ウルムチ市中心部の広場に設置された飾り ©共同通信社

 近年、中国で強調されているのが「体育大国から体育強国へ」との転換だ。2004年のアテネ五輪以後、中国の国・地域別獲得メダル数はアメリカに次ぐ第2位で、世界的なスポーツ大国の座についた。ロシアや東欧ではステート・アマ(国家から身分と報酬を保証された実質的なプロ選手)の維持が困難になるなか、中国は相対的に順位をあげたという側面が強い。国威発揚のため五輪のメダルを狙うだけではない。4年に1度開催される中国全国運動会はいわば中国国内版のオリンピックだが、その成績は地方政府の政治業績とされてきた。官僚の出世のために、必死になってスポーツ選手を育成してきたという歴史がある。

 しかし、メダル至上主義では体育大国になっても、国民全体が運動を楽しむ体育強国たりえないと、中国は方針を大きく変えた。2017年の全国運動会からは地方別のメダルランキングが廃止された。また、「体育強国建設綱要」(2019年公布)、「全国民フィットネス計画2021~2025年」(2021年公布)など、国民のスポーツ習慣育成計画が導入された。