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 中国のコロナ対策で大々的に活用されているのが、健康コードというアプリだ。携帯電話の基地局接続履歴や鉄道や航空便の利用履歴に基づいて、利用者が新型コロナ流行地域を訪問していないか、感染者と同一地点に滞在していないかといったデータに基づき、感染リスクを判定している。中国では今、多くの場所で実名登録が導入されており、そのデータが政府によって把握されている。日本ならば、現金で新幹線チケットを買えばデータを残すことなく移動できるが、中国では高速鉄道も航空機もバスもすべて身分証チェックが義務化されている。

 こうしたさまざまなデータを組み合わせることによって、中国政府は潜在的リスクをあぶりだしている。つい先日もカナダからの国際郵便に付着していたウイルスで、北京市民にオミクロン株感染者が出た疑いがあるとして、海外からの貨物を受け取った市民は速やかにPCR検査を受けるように指示された。なお、国際郵便の受け取りのデータも政府は把握している。北京市では国際郵便を受け取った市民に警告するよう、アプリが更新されている。

宿泊先のホテルでPCR検査を受ける関係者 ©共同通信社

米五輪委は使い捨て携帯電話を推奨

 スマートフォンを通じたデジタル監視は中国市民だけではなく、五輪に参加する選手や海外の記者にも向けられている可能性がある。サイバー空間における人権問題を調査するカナダの研究団体シティズンラボは、北京冬季五輪用アプリ「MY2022」のセキュリティリスクを発表した。このアプリは選手や記者が使うためのもので、五輪日程などの情報閲覧機能と、利用者の健康情報、パスポートなど個人情報の記録に使われる。

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 このアプリに脆弱性が見つかったほか、個人情報の扱いに関する規約が明確ではないことが問題視されている。また、アプリにはNGワード・リストが搭載されている。「天安門動乱」「天安門虐殺」といった歴史的事件から「胡錦濤・江沢民内闘」「習近平」などの政治案件や人名、さらには「日本無修正ビデオ」「ストッキングマッサージ」といったアダルト関連まで、多様性に富んでいる。五輪向けに作られたNGワード・リストではなく、中国のインターネットサービスで一般的に使われているリストを流用したものだろう。

 これらはすぐに海外の選手、記者に危害をもたらすものではないが、国際社会向けに配慮されたものではなく、バリバリの中国流で作られたことが窺える。その意味ではこのアプリをインストールすれば、どのような影響が生じるかには不安が残る。米五輪委員会は自国選手に対し、中国では自分の普段使っている携帯電話ではなく、使い捨てのものを使うようにと勧めている。