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「社会と戦ったりするより、人間として幸せになってほしい」両親の反対、妹との決裂、それでも伊藤詩織が会見を開いたワケ

『Black Box』より #2

2022/03/08

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会, 政治, メディア

note

まだシャットダウンできない

 会見後、私の個人情報は晒され、嫌がらせや脅し、批判のメールが殺到した。

©iStock.com

 母から、妹には連絡しないようにと言われた。とても傷つけてしまったのだ。母曰く、「今まで自慢のお姉ちゃんで、彼女の友だちの間でも、あなたは慕われていたから」と。

 それ以来、いまだに彼女と話すことができていない。ネット情報に触れる機会が多い世代の妹が、きっと見たくもないものをたくさん見てしまっただろうと思うと、今でも胸が痛む。

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 携帯もひっきりなしに鳴った。Kが携帯を預かってくれて、しばらくの間、応対してくれた。一時は外を歩けない気持ちになったが、家族ならかえってできないような支援をしてくれたKに、感謝している。

 会見では自覚していた以上に気が張っていたのか、終わったらどっと疲れが出た。

 会見直後にオファーのあったいくつかのインタビューに対応した帰り道で、私は倒れた。幸い友人がつきそっていてくれ、すぐに病院に連れて行ってもらえた。

 それから数日間、体が動かなかった。咀嚼(そしやく)する力もなく、お腹も空かない。固形物は一週間以上、喉を通らなかった。息が深くできず、体は死人のように冷たくなっていた。

 すべてをシャットダウンして、このまま終わりにしたいと願った。

 会見から10日経ち、やっと少しずつ、ものを咀嚼して食べられるようになった。体も動き出した。

 ここで私がシャットダウンしては困るのだ。会見をした被害者がバッシングを受け、崩れてしまう。そのような結果になることだけは避けたかった。性被害についてオープンに話せる社会にしたいのに、私がその逆の例になってしまってはいけない。