日本最大級の総合ディスカウントストア「ドン・キホーテ」(以下、ドンキ)。黄色と黒の派手な看板を掲げた店舗は、今や日本中で目にするようになった。どの店舗も看板の近くには、ペンギンのマスコットキャラクター「ドンペン」が飾られている。その「ドンペン」には、隠された秘密があるのをご存知だろうか。

 ここでは、日本中のドンキを巡った「街歩きライター」、谷頭和希氏の著書『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』(集英社新書)から一部を抜粋。ドンキの歴史や経営戦略を、社会学や建築の視点から読み解いた内容を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

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池袋でドンペンに出会う

 2010年代半ばからの再開発で注目度が増している池袋。駅東側の中池袋公園周辺の大規模な再開発により、不動産・住宅情報サイトのライフルホームズが発表する「借りて住みたい街」ランキング(首都圏)では2020年まで4年連続で1位を獲得しました。かつて池袋は、石田衣良の『池袋ウエストゲートパーク』で描かれたように、どこか猥雑で不思議な街だと思われていました。しかしこれらの再開発によって、そのイメージは大きく変貌しています。

 では、かつての池袋が持っていた猥雑な雰囲気がまったくなくなってしまったかといえば、そんなことはありません。再開発地帯から歩いて10分ほど。池袋駅から伸びる鉄道の線路周辺には、再開発地帯とはまったく異なる雰囲気を持った街が広がっています。ビデオボックスや風俗店、そしてラブホテル……わずかに歩いただけでこんなにも雰囲気が変わるのかと驚くほどです。こうした街並みは、線路を挟んで向こう側、池袋駅西口方面にも広がっています。もう少し池袋を散歩してみましょう。東口から西口へは、鉄道陸橋を使って向かうのですが、陸橋の上からはラブホテルや雑居ビルなどの派手な看板が見えます。それらの看板をよく見ていると、そのなかにあきらかに目立つものがあります。

 それは1匹のペンギンです。そのペンギンは、建物の角から両手を広げて飛び出し、いまにも外に這い出ようとしています。いったいなんでしょうか。近づいてみましょう。