日本最大級の総合ディスカウントストア「ドン・キホーテ」(以下、ドンキ)。今や日本中に店舗を構えているが、どの店舗も地域の特性や歴史に紐づいた外観を取り入れている。なぜならそれが、「ドンキの経営戦略」と関係しているからだ。

 ここでは、日本中のドンキを巡った「街歩きライター」、谷頭和希氏の著書『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』(集英社新書)から一部を抜粋。ドンキ浅草店を例に、歴史や社会学、建築の視点から読み解いた「ドンキの経営戦略」を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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エレベーター博物館としてのドンキ浅草店

 ドンキ浅草店で注目すべきは、1階にあるエレベーターホールです。ドンキ浅草店には2台のエレベーターがあります。そのエレベーターの上側には、「スカイツリー」と「凌雲閣」の写真が貼られています。とくに注目しなければ、なんだか2つの塔の写真が貼られているなあ、ぐらいにしか思わないと思います。しかし、この写真には深い意味が込められているのです。

 東京スカイツリーは、ほとんどのかたがご存じでしょう。浅草から隅田川を挟んだ位置にあり、日本一の高さ634メートルを誇る自立式電波塔です。エレベーターとスカイツリーはどんな関係なのでしょう。じつは、スカイツリーのなかを通る業務用エレベーターは昇降距離が464・4メートルあり、日本一の昇降距離を持っているのです。まさに、日本エレベーター界のトップを走るエレベーターの1つです。

東京スカイツリー ©iStock.com

 一方の凌雲閣ですが、これは初めて聞く人も多いかもしれません。凌雲閣はかつて「浅草12階」と呼ばれた東京のシンボルマーク的存在です。異名の通り、12階建てで、1890年に竣工しました。ドンキ浅草店から歩いて数百メートルの位置に建っていたので、その関係でエレベーターホールにその写真が飾ってあるのでしょうか。明治時代の半ばに高さ52メートルの建物が現れたことは、1つの大きな事件として受け止められ、一時期は東京観光の1つの名物として多くの観光客が押し寄せました。