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「入り口のオブジェが巨大猿から巨大ペンギンへ…」32期連続増収の「ドンキ」が取り組む“時代を超えた経営戦略”とは

『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』より #2

2022/02/25

genre : ライフ, 歴史,

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ドンキは歴史を反復している

 ここでいま問題としている大勝館とドンキ浅草店についても考えてみましょう。大勝館もドンキ浅草店も、交差点に面しており、なおかつそこは浅草6区。ほかにも目立つ映画館や建物がたくさんありました。そのなかで、どのようにして目立つのか、ということで、隅切りを入り口にして、そこに目立つオブジェを置いて通りすがりの人の目を引くようにしたわけです。まさに「角」にあることによって、その建物が目立つように、いわば浅草6区の「顔」となるようにオブジェが置かれたのではないでしょうか。だからこそ、両者の入り口は似たのだと考えられます。

 このことは、ほかの角地ドンキでも同様でしょう。第1章でも触れたように、ドンキがその入り口に掲げるペンギン「ドンペン」のオブジェは、街のなかでドンキが目立つために、飾られているのでした。その意味では、角地ドンキは、「目立つ」という目的のもと、明治から日本の都市で見られてきた隅切りの手法を自然と反復する形で、そこにオブジェを置いているのではないでしょうか。そう思うと、角地ドンキは、明治以降の東京が育んできた角地の、非常に正当な使いかたをしているとも言えます。逆にいえば、角地という土地の形がこのような連続性を生んだとも考えられる。つまり、見た目としてはさまざまな変化がありつつも、そこに、明治以降の都市の歴史が刻まれているのです。

 角地ドンキは、土地の利用方法から導き出される建築の外観を無意識的に反復しています。だからこそ、かつて同じ場所にあった大勝館と同じような外観を持ち、その結果ドンキ浅草店は伝統的な景観を思わぬ形で残しているのです。

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角地ドンキとして代表的なドン・キホーテ浅草店 ©iStock.com

 このように、私たちはドンキに、自然と歴史を反復している様子を見ることができます。しかも、この反復は意識的に、景観を保全しようとして行われたのではなく、資本主義に基づく経済活動を行った結果、自然にそうなってしまったにすぎない。「目立ちたい」という時代を超えた人々の気持ちこそが、こうした繰り返しを生んだのです。

 経営戦略としての「居抜き」が結果的に歴史を反復し、「イヌキ」を呼び込む─こうした不思議な現象を、ドンキ浅草店をはじめとした角地ドンキは物語っています。

【前編を読む】屋上にジェットコースターが置かれる構想も…日本最大級のディスカウントストア「ドン・キホーテ」の外観が“派手すぎる”ワケ

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