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 ここで重要なのは、凌雲閣が日本で初めて電動式エレベーターを取り入れた建築物だということです。52メートルという高さのため、エレベーターが必要とされたのでしょう。世界で初めての電動式エレベーターが設置されたのが1880年代ですから、世界的に見てもかなり早い段階でのエレベーター設置でした(凌雲閣が開業してエレベーターが公開された11月10日は、現在ではエレベーターの日になっています)。しかし、ほどなくその安全性が疑問視され、凌雲閣のエレベーターは稼働しなくなってしまうのですが、ともあれ日本で最初の電動式エレベーターは凌雲閣にできたのでした。

 このことを、先ほどの東京スカイツリーの話と合わせて考えましょう。ドンキ浅草店のエレベーターホールになにげなく貼られている東京スカイツリーと凌雲閣の写真は、それぞれ現代で最も高いところまで私たちを運んでいるエレベーターと、日本で最初の電動式エレベーターという、日本のエレベーター史の起点と現在地点を描き出す存在になっているわけです。しかも、そのどちらもがドンキ浅草店からそう遠くない位置にあるということで、これはドンキ浅草店ならではの歴史、いうなれば土地の記憶が反映されたエレベーターホールになっているわけです。

 このエレベーターホールの写真の選定には、どことなく知性を感じさせます。少なくとも、それぞれの地域の偉人にドンペンが扮しているご当地性よりも、よりディープなご当地性がある。しかも、それを日本のエレベーターの歴史に重ね合わせるようにして、さりげなく掲げるというのは、ある意味で離れ技にさえ感じさせます。この2枚の写真はあくまでもドンキ浅草店が店舗としての特徴を強調するために作ったものでしょう。しかし、その店としての戦略が結果的に、このような浅草の土地の記憶のみならず、日本のエレベーター史をも内包している。

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 私は、このように街の歴史を無意識のうちに内包してしまうような現象を、「イヌキ」と呼んでみたいのです。

映画館の記憶が浮かび上がるドンキ浅草店

 ドンキ浅草店には、ほかにも「イヌキ」を見つけることができます。

 先ほども語ったように、ドンキ浅草店は大勝館という映画館でした。

 そのことを頭に入れながらドンキ浅草店のなかに入ってみましょう。かつて映画館だった記憶を再現しているのでしょうか。なかには、ちゃんと映画のフィルムが装飾として張りめぐらされているのです。なんということでしょうか。私は最初、この事実を発見したとき、鳥肌が立ってしまいました。フィルムのなかには浅草のさまざまな風景が写されています。まるで、フィルムを通して、ドンキが立地している浅草の記録映像を見せられているかのような気持ちになります。ここがかつて映画館であったことを知っていてそのような内装にしたのか、はたまたなにも知らずに、たまたま映画フィルムをその内装として選んだのか。真偽は不明ですが、このことを知っているとドンキ浅草店を誰よりも楽しむことができるでしょう。