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「勘三郎はほんまアホやで」親友の死に声を荒げた夜から2年…星野源の心に響いた笑福亭鶴瓶の“決意”の言葉

『いのちの車窓から』より「人間」

2022/03/03
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『化物』という歌がある。

 12年末、3rdアルバム『Stranger』の制作中、ある曲の作詞に行き詰まり、苛立ち、自分の顔をボコボコに殴り、ふがいなさに泣き叫んだ。締め切りをはるかに過ぎたレコーディング当日、何とか書き上げスタジオに向かい、歌を吹き込んだ直後くも膜下出血で倒れた。

 その時に録音していた曲が『化物』だった。歌詞は、03年の舞台『ニンゲン御破産』に出演させてもらった際に、当時まだ襲名前の「中村勘九郎」だった勘三郎さんに聞いたお話を基に書いた。

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「たくさんの人に拍手もらって帰るでしょう。でも、家に帰ってシャワーを浴びながら髪の毛洗ってるとねえ、本当にひとりなんだ」

 公演当時、演技について、心底悩んでいたと後に聞いた。あんなに輝いていて、スタッフからも出演者からもお客さんの全員からも好かれ、愛され、悪いところなんて一つも見あたらない人なのに、満足せず、まだ目標を持ち、戦い、心底悩み、故に孤独になるのか。そんなことを思い出しながら書いた。

  風呂場で泡立つ

  胸の奥騒ぐ

  誰かこの声を聞いてよ

  今も高鳴る

  体中で響く

  思い描くものが

  明日を連れてきて

  奈落の底から

  化けた僕をせり上げてく

 不甲斐ないが諦めきれない自分と、今は亡き勘三郎さんへの敬意と、憧れを重ね合わせた歌詞になった。

 休養明け、復帰の武道館公演で『化物』を1曲目に歌った。お客さんには、復活を感じる歌詞が私自身の歌のように響いたらしい。「星野さんの復活を予言した歌ですよね」取材でもそう言われるようになった。勘三郎さんが、「源ちゃんの歌にしてあげるからね」と優しいプレゼントをくれたようだった。