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「5年前にさぁ…心臓を切った大手術をしたんですよ」石原裕次郎のアドリブが光る“あの刑事ドラマ”の最終回

2022/02/25

source : 電子書籍

genre : エンタメ, 芸能, テレビ・ラジオ

「ブルースがこのまま殉職するのでは?」視聴者をハラハラさせた第718話「そして又、ボスと共に」

脚本/峯尾基三 監督/鈴木一平

 ブルースこと澤村刑事(又野誠治)にタレコミがあった。自動車窃盗犯の恩田(杉=バルシャーク=欣也)がアパートの自室にいるというのだ。さっそく、ブルースは恩田のアパートに急行した。ブルースの追撃をかわした恩田は、とある廃工場に逃げこむ。恩田を追って工場に潜入するブルース……その時、1発の銃弾がブルースの腹を貫いた。もうひとり、別の人物が待ち伏せていたのだ。誰だ!?

石原裕次郎 ©文藝春秋

 ブルースからの連絡が跡絶えたことで、七曲署は恩田のアパート周辺の捜索を開始した。西條刑事ことドック(神田正輝)&D・Jこと太宰刑事(西山浩司)が、例の廃工場でブルースの警察手帳と血痕を発見。さらに岩城刑事ことマミー(長谷直美)らが映画館にいた恩田を逮捕。恩田の自供で、ビリヤード場で出会った男から100万円の報酬で、ブルースを誘き出すように頼まれたことが判明する。ブルースが撃たれた上、どこかに拉致されたことを知って動揺する捜査一係。七曲署の必死の捜索にも拘わらず、時刻は刻一刻とすぎてゆく……。

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 そこへ──待ちに待っていた救世主が現れた! 七曲署係長・藤堂俊介──そう、ボスだッ! ボスが最終回にして久々に七曲署に復帰したのだ。喜ぶ七曲署のメンバー以上に、ぼくらTVの前の視聴者も嬉しかった! ピンチヒッターで登板した警部(渡哲也)と共に、捜査一係の配属になったD・Jなど、初めて会う伝説の男・ボスを前に緊張しまくり! そりゃそうだ。西山クンだって裕次郎に会うのは初めてなのだ。D・Jの緊張と感動は、そのまま西山自身のものでもあった。

最終回にして復帰した石原裕次郎の名アドリブ

 警部とトシさん(地井武男)からこれまでのいきさつを聞いたボスは、全力を上げてブルースの救出にあたるよう命じた。まもなく、ビリヤード場のラインから津坂久という男が割り出された。津坂を演じた遠藤憲一は、TBSの名作ドラマ『青が散る』(83年)などで有名な個性派俳優だ。

最終回で犯人役の津坂を演じた遠藤憲一 ©文藝春秋

 さて──津坂の兄・肇は、3年前に強盗を犯した。肇は逃走中のところをブルースに撃たれ、共犯の一ノ瀬剛(時本=バトルホーク=和也)に助けられて姿をくらます。だが、ひと月後、肇は郷里で死体となって発見された。死因はブルースに撃たれた傷が悪化したことによる。

 例の廃工場こそ、ブルースが肇を撃った場所だったのだ。津坂は、ブルースに兄と同じ苦しみを味わわせようと廃工場でブルースを撃ち、3年前に兄が息を引き取った別荘に連れ去ったのだ。その場所を知っているのは一ノ瀬しかいない……。そこで一ノ瀬の妹(桂田裕子)を呼び、ボスが直接尋問にあたった。以下は俳優・石原裕次郎の完全オリジナルなアドリブである。

「いやね、俺ァね、5年前にさぁ……心臓を切った大手術をしたんですよ。それ以来プッツリ、医者に言われてこの、大好きだったタバコをこう、禁煙してるわけ。でも……吸っちゃおうかなァ~~と思ってるんだけど……」

石原裕次郎 ©文藝春秋

 ドアの外に誰もいないことを確認してから吸い始めるボス。裕さん……。

「命ってやつぁ何にも替え難く、そしてこう、大切なものだ……」