「オリエント急行~」の列車に代わり、今回はナイル川のクルーズ船が舞台。乗客は、結婚式を挙げたばかりの資産家令嬢リネット(ガル・ガドット)と、家柄は不釣り合いだが魅力的な夫サイモン(アーミー・ハマー)、彼らの招待客。そんな中に、呼ばれてもいないのに勝手に乗り込んでくるのがジャクリーンだ。彼女はサイモンの元婚約者で、リネットの元友人。そもそも、ジャクリーンが自分の婚約者だとサイモンをリネットに紹介したことで、サイモンとリネットは知り合うのである。78年の映画でジャクリーンを演じたのは、当時売れっ子だったミア・ファロー。しかし、本作でブラナーは、ほぼ無名のエマ・マッキーを抜擢した。
「これらの映画の魅力は、大物スターが勢揃いすること。だが、そんな中にちょっとしたサプライズが入ると、なお楽しい。ジャクリーンは、美味しい役だ。彼女は怒りに燃えている。なぜならサイモンを愛しすぎているから。それは危険な愛。ポアロも、自分の過去の恋について『私は彼女を愛しすぎていた。彼女に振られたら自分は死ぬとまで思っていた』と言うが、ジャクリーンはまさにそれ。あの役に求められるのは、激しい嫉妬、興奮、絶望といった、剥き出しの感情を恐れなく表現できる女優。それに、知性と憐れみを感じさせられることも大事だ。でなければ観客が共感してくれないからね」
ポアロのトレードマークの「口髭」、その意味は…
口髭は、ポアロのトレードマーク。だが、それ以上の意味がある。
「あれはポアロにとって仮面なんだ。完璧な口髭を保つことで、人に、『ポアロは頭が切れる。ポアロはこの事件を解決してくれる』と思わせるんだよ。ビジネスマンにとっての名刺のようなものさ。だから、暑いナイル川の上にいても、湿っぽくベタついた状態にしてはだめなんだ。撮影中のお直しも大変だったよ。あれだけの大物スターや数100人のスタッフとクルーをたかだか髭のために待たせるというのは、かなり申し訳なかった」