松嶋菜々子、美しい……。
私は2021年秋クールのドラマ「SUPER RICH」を見て、彼女が出るたび毎回、ため息をついていた。奇抜なデザインのスーツをバシッと着こなす華。鈴の鳴るような声、すらりとした身長。溢れ出る気品。完璧じゃないか!
「私が本当のスーパーリッチだから」というセリフはまさにこの人のためにある、と思った。
「となりのチカラ」では一転……
だからこそ、2022年1月から放送されている「となりのチカラ」で占いオバサンとして登場したときはビックリした。どッ、どうしたの菜々子! そのグリングリンの髪と、ガラついている声は!?
ドラマ「相棒」の間に入る、聖母系菜々子が出るパブロンのCMで気を取り直したが、いやいや気を取り直す必要はない。思い出した。何気に彼女はチャレンジャーなのである。
「魔女の条件」は滝沢秀明演じる高校生と恋に落ちる女性教師、というリスキーな役だった。「やまとなでしこ」の桜子様もけっこうな歪みキャラだった。ヤバい状態の人を自然体かつ優雅に演じるので、観ているこっちはウッカリ「アリかも」という気になってしまうのである。
特に松嶋菜々子がノーメイクで挑んでくる場合、その映画・ドラマの破壊力は増す。あんまり自分が見たくない、心の奥の奥の部分を掘り起こされる。注意が必要だ。
ミタさんは「宇宙飛行士のイメージ」だった
まずはその代表的作品といえる「家政婦のミタ」を振り返ってみよう。物語のテーマは「家庭崩壊と再生」。家族として崩壊している阿須田家に、家政婦の三田灯が来ることで再生していくというストーリーだ。
2011年は月9や大河ドラマが視聴率20%を切るなど、テレビ離れが進んでいた。そんな中で最高視聴率40%を叩き出すメガヒット。四次元ポケットの如くなんでも出てくるミタさんのドクターズバッグは話題になり、なんと商品化。当たり前だが「なんでも出てくる」わけにはいかず、普通の使いやすい牛革のバッグだったが、6万5000円という高値でしかも飛ぶように売れた。当時のミタ・フィーバーがどれだけ凄かったかが分かる。
脚本の遊川和彦氏によると、阿須田家はアース(地球)をもじったもので、ミタさんは「地球を見守る宇宙飛行士のイメージ」だったという。いわばミタさんは物語の「外」の人だ。ドタバタは阿須田家の人間が起こし、ダメ父を演じた長谷川博己は一気に知名度を上げた。本当に情けない父親役ではあったが、役者としてやり甲斐があったに違いない。
対して松嶋菜々子演じるミタさんの台詞は「それは業務命令ですか」「承知しました」がほとんどで、常に無表情。素人目ながら「ストレス溜まりそうな役だなあ」と思っていた。実際、彼女は本番前「私はターミネーター……」と繰り返していたという。