私はこのドラマが好きだったが、ミタさんより、常に笑顔で子どもたちの面倒を見に来るのに、すべて裏目に出るうらら(相武紗季)に感情移入した。
良かれと思ってやったのに疎まれ、子どもたちにトランプのババと呼ばれるうらら。ニコリともしないが頼まれたことは完璧にこなし、家族の信頼を得るミタさん……。
その対比が切なくて、なんだか胸が痛くなったものである。本当に困っている人に必要なのは、頼まれたことだけ完ぺきにこなしてくれる人。技術の伴わない善意は足を引っ張るだけなのだと突き付けられた気がしたのだ。
でもミタさんは最終的に「あなたの言っていることは正しい。やり方が間違っているだけ」とうららに言い、笑顔で阿須田家を見守ってほしい、と頼むのだ。このシーンでは「お節介が悪いわけじゃない。やり方次第よ!」と言われている気がした。
勝手に「そんな気がした」だけなのだが、いやはや考えさせられた。なんとなく、うららと「となりのチカラ」のチカラは似ている。うららが「間違ったお節介」の具現化だとしたら、それを繰り返しかけつつも、学び直しているのがチカラという存在なのかもしれない。
「家政婦のミタ」は続編のオファーもあったというが、松嶋菜々子はスパッとミタモードを消去。翌年にはドラマ「ラッキーセブン」の藤崎瞳子役を颯爽と演じている。
この潔さ。松嶋菜々子は色を残さないというか、観ているこちらが「次に行くんですね、承知しました!」と言いたくなるくらいサッと切り替えてくる。それが息の長い秘訣なのかもしれない。
「クズの弾除け」を演じた覚悟
ノーメイク松嶋菜々子でもう一つ強烈なのが2013年の映画「藁の楯」の白岩篤子役である。
7歳の孫娘を殺された資産家が、その犯人を殺した者に10億円の報奨金を出す。殺されることを恐れた犯人は警察に出頭。そこで警察は警護を任されることになる。いわば「クズの弾除け」。松嶋菜々子はSP役の紅一点。
ところが映画を観ると、「紅一点」という言葉を忘れるような想定外の彼女がいた。大沢たかお、伊武雅刀などのハードボイルドなメンツに紛れ「菜々子はどこ?」と時々見失うほどにドロドロに溶け込んでいたのである。
凛とした美しさは健在だ。だがしかし、ノーメイクでショートヘアを振り乱し、笑顔は無い。目にクマまで! 犯人・清丸(これを演じる藤原竜也がうますぎて死ぬほど腹が立つ)の「オバサン臭い」と言うセリフがこれまた強烈だ。「オバサン」に「臭い」までつけられる! この言葉が出るタイミングも残酷極まりない。オイオイオイと突っ伏してしまった。
この映画は、犯人役の藤原竜也の嫌われる覚悟も凄いと思ったが、松嶋菜々子のキレイをかなぐり捨てる覚悟も伝わってきた。そしてまたもやいろんなことを考えさせられる。余韻が強烈なので二度と見たくないが。