心霊、ゾンビ、巨大生物パニック……。

 ホラーマンガと呼ばれるジャンルは非常に幅広く、さまざまな形のものが日々生み出されて人気を博しているが、そういったものとは一線を画したアプローチで話題を集めている作品がある。

その名の通り「恐怖症」をテーマに

「ビッグコミックスペリオール」で連載されている『フォビア』(小学館)だ。

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『フォビア』は、その名の通り「=恐怖症」をテーマにした短編作品集で、毎回なんらかの恐怖を内に抱えた人物を主人公に据えた物語が展開されており、現在発売中の単行本1巻には、「隙間」「匂い」「高所」「集合体」「閉所」の5つの恐怖症物語が収録されている。

『フォビア』第1巻

 原作は『るみちゃんの事象』『ハラストレーション』などで、「何かがおかしい人間たちの、当たり前のズレた会話」を描き続けるギャグ漫画家・原克玄。

 作画は『水色の部屋』などで、性や自我の葛藤を容赦ない手腕で削り出してきたゴトウユキコが担当している。

純粋に相手を思ったゆえの狂気が淡々と語られる

 第1話で描かれるのは、「隙間恐怖症」を抱えながらも誠実に生きようとする一人の女性の決意と狂気の物語だ。

 幼い頃に、排水溝の隙間から死体を見てしまった橋田ちえみは、それ以来「隙間」というものを異常に恐れながら暮らす会社員。

 そんなちえみにも「理解のある彼くん」がおり、辛さを抱えつつも幸せに生きていた……が、とある事件によってすべてが壊れ出す。

©原克玄/ゴトウユキコ/小学館

 彼を救いたい一心でちえみはとんでもない行動に出るのだが、ここで特筆すべきは、凄惨なバイオレンスシーンだけでなく、意を決したちえみの服装だ。

 襟が丸いベージュのキルティングコートと帽子の組み合わせは、世界を良くするための狂った使命感を加速させる人間の最高の記号。ゴトウユキコの「こういう人間はこういう服をまとって自己正当化する」という勝負服の解像度はさすがの一言。

 ここから「縫うよ? ね?」「焼きつけたほうがいいか……」などと、純粋に相手を思ったゆえの狂気が淡々と語られるのだからたまらない。

©原克玄/ゴトウユキコ/小学館

「ホラーマンガ」と呼ぶべき破滅的な結末

 続く第2話、「匂い」は、彼氏からの悪気ない一言で、自分の体臭が許せなくなった少女・りさの物語だ。