好きな男子に嫌われたくない一心で脇の下から口の周りまで消臭し、さらには「臭いの元になる」という理由で食事も拒否し始めるりさ。
その後の破滅的な結末は「ホラーマンガ」と呼ぶべきものではあるが、ここでもただ突飛な設定や理解できない異常者の行動というだけでなく、「他人からどう思われているか気になりすぎた結果、見られたくない自分の姿を頭の中に自ら作り出し、どんどんなりたくない自分になっていってしまう」という迷走や、鈍感な人間の何気ない言葉に勝手に我慢を積み重ねて潰されていく生きづらさなど、多かれ少なかれ誰にでもある心理がうまく組み込まれているのではないだろうか。
ゴトウユキコファンからすると「真骨頂!」
もっとも「ゴトウユキコが絵を描くということ」が意味を持って浮き上がってくるのが、第4話「集合体」だろう。
東京に進学してきた一人の女性の「まわりとズレてる」という不安、異性からの容赦ない性的な視線(特に、バイト先の店長のスパゲッティの食べ方が悪魔的ですさまじい)。
寂しさと自己肯定感のなさに付け込んでくる人間の悪意や、それでもいいと思い自分をゆだねてしまう心の隙は、短編集『36度』の主人公たちにも共通したテーマで、「悪い話が読みたい」「マンガを読んで心がボロボロになりたい」というゴトウユキコファンからすると「真骨頂!」と呼べるものだろう。
奇跡の合作となった『フォビア』
第3話「高所」は、成り上がったIT企業の社長が破滅していく物語で、単行本1巻に収録された作品の中では唯一ラストで心がスッキリする自業自得エピソードだ。しかし、この主人公のキャラクター造形も「具体的にはなんとも言えないが、痛い目にあって慌てふためいているところをみんなが見たそうなタイプの絶妙な顔」になっている。
ギャグ漫画家・原克玄が書いた「悪ふざけのエスカレーション」とでもいうべき原作を、ゴトウユキコが「向き合いたくない人間の本質」で飾って完成させた奇跡の合作、『フォビア』。
現在、第1巻が刊行されており、第6話以降は7月発売予定の単行本2巻に掲載されるという。