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「心の底から野球を楽しめました」上田、山中、中尾、大村…元ヤクルト4人が出場した「合同引退試合」の舞台裏

文春野球コラム ウィンターリーグ2022

2022/02/23
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「笑顔」に溢れた一日だった。

 いつもの年なら、新人合同自主トレの始まる頃。野球ファンがひたすら球音を待ち続けている時期だ。年明け、2022年1月8日。真冬のメットライフドームに、17人の「元選手」たちが特別試合のために集まった。コロナ禍の中、限られた観客は家族など関係者、スカパー!プロ野球セットの契約者たち、このイベントに協力するプロ野球OB会のOBたち。そして、この日の試合前に野球教室に参加した子どもたちが、そのままスタンドに残って観戦していた。

 昨年12月に発表された「PERSOL THE LAST GAME」。「合同引退試合」という聞き慣れない試みだが、スカパー!が企画し、PERSOLが協賛となった。引退試合が行われることのなかった選手たちが、ファンや家族にプレイを見せられる舞台。当事者の選手たちだけでなく、家族やファンにとっても大事な一日となるだろう。

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 この日集まった中には上田剛史(元ヤクルト)、内竜也(元ロッテ)、田原誠次(元巨人)といった一軍で活躍した選手たちがいる。そしてまた同じ場所に、大窪士夢(元西武)や加藤壮太(元巨人)のように、支配下登録が叶わなかった育成選手たちもいる。みなそれぞれに家族がいてファンがいる。試合を通して感じられたのは、主催者から選手に対してのリスペクトとセカンドキャリアへの後押し、そして家族やファンに対する温かい気遣いだった。

 試合当日、スタンドにはそれぞれの選手の名と「ありがとう」と書かれた横断幕が掲げられた。引退選手のユニフォームを着たりタオルを掲げたりするファンの姿もある。球場に行くことの出来なかったファンも、ライブ中継を見ることができる。スカパー!では裏側も含めた完全版も放送された。

 選手たちは「EAST HOPES」「WEST DREAMS」の2チームに分かれた。別々のユニフォームを着て9イニングを戦う。投手が多く野手が少ないため、かつて見たことのないポジションが目白押しで、ファンも驚きながら楽しんだ。プレイする選手たちは、皆一様に顔が輝いていた。内野で、外野で、マウンドで、打席で、子供のような笑顔を見せる。励まし合い歓声を上げ、伸び伸びと野球を楽しむ様が見て取れた。

 打ち合いとなった試合は後半接戦となり、選手のプレイにも熱が入る。WESTがリードし、EASTが逆転、WESTが再逆転。さらにEASTが土壇場追いつき、8-8の引き分け。内容の濃い熱戦となった。

「久しぶりにドキドキして熱くなりました」

 元東京ヤクルトスワローズの選手は4人が出場した。上田剛史、山中浩史は2020年シーズンを最後に引退。ブランクを経ての参加となる。そして中尾輝、大村孟は2021年シーズンに引退したばかりだ。彼らが企画を聞いたのは、この試合のほんの1ヶ月前だったという。

左から山中浩史、上田剛史、大村孟、中尾輝 ©中尾輝

 上田は普段草野球でYouTubeを撮影したり、母校の野球部に指導に行ったりはしているが、本格的な野球の練習はしていない。

「決まった時にちょっと練習して次の日動けなくなったのでやめました(笑)。多分明日はヤバイと思います」

 そうは言いながらも打っては4安打。守備でもセンターで好プレイを見せ、内野もこなした。

上田剛史 ©HISATO

「欲を言えばマウンドにも上がりたかったですけどね。本当に楽しく野球が出来た。久しぶりにドキドキして熱くなりました」

 ファンに向けても、この日は見せたい姿を見せることが出来たと頷く。

「まだまだ元気に楽しく野球が出来る姿を、引退した今でもそれなりにいいプレイが出来るところを見せたいと思ってました。今日やってみて、思ったよりは動けた。もっと、現役の時に近い形に、まだまだ戻せる年齢だとは思ってるんです。トレーニングしないといけないなと思いました」

 最近、自身の野球チームを結成するためにトライアウトも開催した上田。これからも元気な姿をファンに見せていくだろう。

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