徳仁はバーベキューの炭をつかむハサミをハモの口の中に入れていたが、文仁は自分の指をいれたのだ。ハモの歯は鋭く、文仁は痛くて泣いたという。文仁は8歳のときに、御所で飼っていたタヌキをなでようとして、足と手をかまれたこともあった。また、高校生のときには元旦に油壺のマリンパークでイルカと握手しようとして、手が開いている口に入り、かまれている。イルカの歯はかなり鋭く、縫うほどではなかったが、今も右手首の付け根にそのあとが残っているらしい。道をはっていた青大将を捕まえようとしてかまれたこともあったという。こうした体験をしながらも、文仁の動物好きは変わらなかった。自宅に出たゴキブリを、つまんで捨てることもあるという。「動物というものがあまりにも身近で、今まで意識しないできましたから。動物といるとホッとするということは確かにありますね」という文仁の言葉を、江森は書いている。
人間探究派の兄と動物探究派の弟
水と人間社会との関わりに関心を持つ兄の徳仁と、動物に関心を持つ弟の文仁をあえて分ければ、「人間探究派」と「動物探究派」に分類できるかもしれない。さらには、文仁の研究は、昭和天皇のヒドロゾア研究、平成の天皇のハゼ分類と同傾向の生物分類学に関わり、文仁の研究のほうが、むしろ昭和天皇以降の天皇の研究の流れに近い。
徳仁も動物好きであるが、道や水運への関心もあり、そこに将来の天皇たるべき自覚が混在して、水と人間社会の研究にテーマが絞られていったようだ。
【前編を読む】〈新種10種を発見〉公務が最優先で、研究時間が限られていることも影響? 上皇陛下はなぜ研究テーマに“ハゼ”を選んだのか