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「会いたくて震える」活動期間は約10年…西野カナ“着うたの女王”の歌詞が平成後期に支持されたワケ

2022/02/27
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恋愛イケイケガールの曲かと思いきや……

 弾むようなメロディの18th「GO FOR IT!」(2012年)は、チアガールのMVがとてもかわいいので恋愛イケイケガールの曲かと思いきや、驚くほど独り相撲感が極まっていた。「嫌われたくない」「明日は言えるかな」。この歌のヒロインは多分明日が来ても「無理だった。明日言えるかな」と一日延ばしになっていきそうな気がする。でも、西野カナという「心のチアガール」はどれだけ延期しても、毎回励ましてくれる。そっか、言えなかったか、じゃあ明日頑張ろう。GO FOR IT!と。

 このように、見えてくるのは、相手の反応を見ずスマホ越しに「ああかしら、こうかしら」とグルグル思考を回す不器用な女の子。

 ネット・SNSという便利なコミュニケーションツールは先読みを暴走させる。夜中に勢いで長文メールを送って「もうダメだキモがられた!」と後悔したり、逆に送信が押せなくて「もしも押さずにいたら」「あのとき出しておけば」とのたうち回ったり。そんなトホホをやさしく見守り応援してくれる妖精がいたなら、きっとこんな風。それが西野カナなのだ。

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©getty

 私は昭和生まれだが、筋金入りの妄想族。感情移入せずにいられない。出てくる言葉がシンプルなので、昭和だろうが平成だろうが令和だろうが、恋する女の子は一緒だなあ、という最大公約数のような共感が生まれてくる。

「応援側」に立ち続ける徹底ぶり

 そして、大きな変化も求めていない。楽曲から見えるのは「ありのままを受け入れてくれる運命」への強い願いだ。これは平成後期の大きな特徴だろうと思う。

 平成前期は「自分探し」に出かける人が多かったが、自分探しはゴールがない。探し疲れが起こるのもある意味当然。次第に今の自分の価値観と向き合うように流れが変わり、「アナと雪の女王」(2014年)は、そこにズバッとハマったのだと思う。

 ありのままの姿を見せて、それを受け入れてくれる人こそ運命。でも、そのまま愛してもらうためには、プロフィールの整理や自己分析が必要だ。しかもありのままの自分をさらけ出すのって勇気がいる……。そんな迷いが今度は出てくる。