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 西野カナは見事にその足踏みを描いているが、徹底しているのが、彼女の立ち位置はあくまで「応援側」ということ。歌詞を読んでも、「西野カナ」本人の個人的なバックボーンや価値観、訴えたい思いはほとんど見えてこない。ここが同世代の他のアーティストに比べて、ちょっと珍しい。

「大勢の声を包み込む」ストーリーテラー

 現在西野カナの歌が全曲サブスクリプション公開されているが、その紹介文に「恋愛のストーリーテラー」とあって、とても納得した。「代弁者」よりもう少し遠い距離感。ストーリーテラー、もしくはファシリテーターというイメージである。

 新たな表現で唸らせるのではなく、王道の言葉をサクサクと与えてくれる感じ。彼女が関西(三重県)出身なのが関係あるのかどうかはわからないが、吉本新喜劇的と言おうか。お決まりの言葉でドカンとお決まりの感動や展開が来る安心感。

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 彼女の作詞法は、多くの人の意見を参考にする「マーケティング法」という手法なのだというが、なるほど! 「トリセツ」のMVは、まさにその「大勢の声をまとめる」彼女の聞き上手が分かるストーリーになっている。舞台にはたくさんの女の子。客席には、その女の子の好きな人(恋人)がいる。そして、「急に不機嫌になることがあります……」と1フレーズにつき、1カップルずつ起立して、女の子が発言していくのだ。そして、西野カナは舞台の横で司会進行をし、女の子の発言をやさしく補足する。

©getty

活動休止は平成が終わる直前だった

 このMVさながらに、平成後期、自分と向き合おうとする「乙女会議」を上手にまわした彼女。日常の小さなアレコレを、とてもかわいい箱に詰め、マカロンカラー、キラキラストーン、リボン……など、女の子たちの「大好き」で包み込み届けていたイメージ。

 恋の迷いもウジウジした自分も、彼女がかわいくデコってくれるので、テンションを上げて向き合える。彼女の普遍性が約10年に渡って支持を得たのは、どれもすべて丁寧に「ラッピング」をして、応援の気持ちを届けていたからだろう。

 平成が終わる直前に活動休止をしたが、その歌声は永久保存版。またいつか柔らかくポップな歌声で、新たな時代の乙女会議にパッと姿を見せてほしい。

 わかりやすい言葉と明るい感性は、多くの人の心に寄り添える。なんでもない日常が幸せなんだから――。そう言われているようで、とってもラクだ。