2月24日にロシア軍によるウクライナ侵攻が開始されてから、メディアやSNSではウクライナの悲惨な状況が飛び交っている。しかし、一般的なロシア人が今回の侵攻をどう見ているかは一向に見えてこない。

 およそ20年にわたってプーチンを支持し続けてきたロシア国民は、今回のウクライナ侵攻をどう捉えているのか。元産経新聞モスクワ支局長で、大和大学社会学部教授の佐々木正明氏が解説する。

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プーチンに反対しているのは「多くても10%程度」

 ロシア軍によるウクライナへの侵攻が始まった日から、ロシア国内では首都モスクワとサンクトペテルブルクを中心に大規模なデモが発生し、約1400人が逮捕されるなど「ロシア国内の反戦ムード」を象徴する出来事がいくつか報道されています。

モスクワでの反戦デモと、それを取り締まる警察官たち ©Getty Images

 平昌五輪女子フィギュアスケートの銀メダリスト、エフゲニア・メドベージェワや歌手のヴァレリー・メラジェらもSNSで抗議の意を発表するなど、反戦を表明するロシアの著名人も徐々に増えてきました。

 しかし、これらを見て「ロシアの一般市民の多くは今回の戦争に反対している」と考えるのは早計です。今でもロシア人の大部分はプーチン大統領を支持していて、ウクライナへの侵攻にハッキリ反対している人は、選挙分析や人口動態から見て人口の10%程度はいるのではないか、という目算です。プーチンに対して懐疑的な人はさらに多いはずです。

 それでも2月初めに非政府系の組織が発表した調査では、プーチン大統領の支持率は70%に迫っていました。刻一刻と状況が変化しているとはいえ、現在もそれが大きく低下しているとは考えられません。

キエフの高層マンションに爆撃 ©Getty Images

 では誰がプーチンを支持し、誰が反対デモを起こしているのでしょう。それを理解するためには、ロシアに存在する3つの大きな「分断」が重要になります。

 1つめの分断は「ソ連時代を体験したかどうか」です。現在30代後半以上のロシア人は、ソ連が崩壊した1991年以前の記憶を持っています。そしてソ連末期や90年代のエリツィン大統領時代は、多くの人にとって“苦しかった原風景”になっています。

 失業率がすさまじく高く、自殺者も多くいました。一家離散など悲惨な事態がロシア中で繰り広げられていた時代を知る世代にとって、プーチンは「国を立て直した救世主」。ロシアが豊かになったのはプーチンのおかげ、プーチンこそが超大国だったロシアを復活させてくれる指導者なのだと考えています。

 しかし30歳以下の若い人たちはそもそも超大国だったソ連という時代を知らないため、プーチンに対する熱狂的な支持者は「ソ連人」に比べて少ないのです。