京王堀之内駅から歩いて5、6分。多摩ニュータウン通りの暗闇に突如として、人波と店の灯が見えてくる。周囲が暗く静まる中で目立つこの空間には毎晩、屈強な体格の若者たちが多く集まる。

にんにくや ©高木遊

 店の名は『にんにくや』。豚骨や鶏ガラなどからとった出汁に背脂がたっぷりと入ったスープ、小麦の豊かな風味が広がる細麺の上にチャーシュー、ネギ、もやしといったトッピングがのる。

 メニューは、しょうゆラーメン(780円)と、みそラーメン(880円)と、チャーシューメン(1080円)、替え玉、大盛(それぞれ100円)といったシンプルな構成だ。

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チャーシューメン1080円 ©高木遊

 店名からはインパクト満点でガテン系なラーメンが出てくる印象を受けるかもしれないが、誰にでも親しみやすい美味しさが詰まった一杯だ。

 店名にもある「にんにく」は卓上から取り放題となっており、「これを入れてスープが完成する」と言う人もいるほど、スープとの相性は抜群。穏やかな味を求める人はそのままで、さらなる旨味やパンチを求める人はにんにくをどんどん投入していけばよいようになっている。

 店内には壁いっぱいにアスリートたちのサインが貼られている。中でも多いのは、澤村拓一(レッドソックス)ら中央大学硬式野球部(以下、中大野球部)出身の選手たちだ。

澤村拓一と店主の関大輔さん(にんにくや関さん提供)

 OBである山田直さんが「中大野球部は生活の一部に、にんにくやが入っていると言っても過言ではありません」と語るほどだ。他にも中央大の様々な運動部やサークルの部員や明星大、帝京大、国士舘大などの近隣大学の選手や学生がやって来る。

 サイン色紙を見ていくだけでも錚々たるメンバーが発見できる。中大野球部からプロに進んだ近年の選手は牧秀悟(DeNA)など全員分あり、松原聖弥(明星大→巨人)、石川祐希(中大バレー部OB)、シュミット・ダニエル(中大サッカー部OB)、松田力也ら帝京大ラグビー部OBと各界で活躍する選手の色紙が目白押しだ。昨年行われた東京オリンピックには常連客10人以上が出場したという。

 一体何がそんなに部活に打ち込む学生たちを魅了するのだろうか。

店内に飾られたサイン色紙 ©高木遊

客の9割がリピーター にんにくやの魅力とは

 店主の関大輔さんは、11年前にこの堀之内店を先代から引き継ぎ、営業時間中は1人(ワンオペ)で店を回している(※営業時間は日曜・祝日を除く18時から26時。東京都にまん延防止等重連措置が適用中の現在は17時から21時まで営業。にんにくやは姉妹店として、JR東小金井駅が最寄りの小金井店がある)。

 そんな重労働と言ってもおかしくない仕事だが、関さんからは微塵もそうした雰囲気を感じない。とにかく手際が良く、とにかく笑顔なのだ。そして、会話を交わす若者たちもまた笑顔だ。

 関さんは「営業中がとにかく楽しいんです。仕事というよりも、遊びに来てくれた友達にお茶を出すような感覚ですよ」と屈託のない笑顔で語る。週1回以上のペースで来てくれるお客さんは100人以上おり、客の9割がリピーターだという。かつての常連が東京遠征や出張の際に、わざわざやって来ることも珍しくない。

石川祐希ら中大バレー部と店主の関大輔さん(にんにくや関さん提供)

 毎春やってくる卒業シーズンは「一番嫌い!」と言うほど寂しくなると言うが、「だからこそ、卒業してからも来てくれると2倍3倍で嬉しいですね」と笑う。11年も店にいれば、かつては初々しかった学生が、今や立派なお父さんになっていることも珍しくない。また、この店を通じて結婚したカップルもいるそうだ。

「味は当然ですが、お客さんの笑顔に一番こだわっています」

 まずは味。人件費がかかっていないからこそ、材料費にお金を費やせる。麺は特注で、背脂は上質なものを使用しているため、胃がもたれることなく旨味だけが詰まっている。

 さらに特筆すべきはチャーシュー。昨今はやたらと低温調理のものやトロトロに溶けていくものが多いが、こちらはしっかりと噛み応えがあり、噛むたびに豚の旨味が口いっぱいに広がっていく。