市民同士の口論がエスカレートし、警察が出動
ただ、やはり緊迫状態のなか他人が集まるわけですからトラブルは起こっているようです。シェルターには、自警団がIDなどをチェックした後に入ることができるのですが、護身用に武器を持ってシェルターに入ろうとする者もいるそうです。私の妻が避難したシェルターでは、市民同士が政治の話をして口論がエスカレートした挙句、警察が出動する事態になったこともあったそうです。そうしたトラブルを避けるため、なるべく人と話をしないようにして、個々がスマホをいじり、友人とSNSで連絡をとりあっているのが現状です。Wi-Fiは地下のシェルターでもつながるようです」
――政治の話で口論がエスカレートするというのは、ウクライナ国民の間でもこの戦争に対して意見の対立があるのでしょうか?
「若者は圧倒的にゼレンスキー大統領を支持していますが、強い旧ソ連体制を経験した高齢者のなかには『昔はよかった』と懐かしみ、プーチンを支持する者もいます。昔、ウクライナの西の地域では、プーチンの顔をプリントしたトイレットペーパーや足拭きマットが土産物屋で売られていました。そのお土産を購入した外国人観光客が現地で暴行を受けたという事件が過去にありました。
ウクライナの西の都市にも親ロシア派、隠れ親ロシア派のウクライナ人はいます。実は私の妻の両親も親ロシア派でした。プーチンを救世主と考え、それこそ『ロシアが自分たちを解放してくれる』と思い込み、キエフからの避難や国外退避を嫌がっていました。妻は両親をおいて脱出するつもりはないのですが、友達の家族のなかには思想の違いで絶縁し、バラバラになった家族もいると聞きます。こうしたウクライナ人の間での『断絶』によるトラブルは今にはじまったことではなく、8年前のクリミア半島併合から続いている。今回、妻の両親は市内で起こった銃撃戦の様子や爆発音を聞いて、ようやくこれが“侵略”であると理解した様子です」