前稿では、赤肉について、がんとの関連性はあるものの、食べるにあたりそれほど深刻に考えることはないと述べました。本稿はその理由をお伝えしたいと思います。 

 2007年の世界がん研究基金と米国がん研究協会の報告では、赤肉と加工肉が大腸がんのリスクを高める可能性を「確実」と判定しています。 
 
 日本でも、全国の45~74歳の男女約8万人を対象とした多目的コホート研究が行われています。1995年と1998年に生活習慣に関するアンケート調査を行い、その後2006年まで追跡調査をしています。 
 
 この調査では、日頃食べている「肉類」の総量と、「赤肉」「加工肉」の一日当たり摂取量から、それぞれを男女5つのグループに分け、各群がその後大腸がん(直腸がんと結腸がん)になる確率を調べています。 

 対象の約8万人のうち、調査期間中に大腸がんになったのは1145人(結腸がん788人、直腸がん357人)で、次のことが分かりました。

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 一日当たりの「肉類全体」の摂取量が100グラムを超える男性のグループでは結腸がんリスクが高く、一日当たりの「赤肉」摂取量が80グラムを超える女性のグループは結腸がんリスクが高いという点です。「肉類全体」では結腸がんとの関連が見られた男性も「赤肉」限定では結腸がんとの統計学的有意な関連は示されませんでした。 

 加工肉についてはさらに摂取量を10グループに細分化して調べており、「男性の最も摂取量の多いグループ」(上位10パーセント)で結腸がんのリスクが高まるという結果が出ています。従って、日本人の大半が摂取している加工肉の量では、がんのリスクは上がらないと考えても良いと思われます。 
 
 欧米の15のコホート研究を用いた分析では、赤肉摂取量が120グラム増えると、大腸がんリスクが28パーセント上昇する(加工肉は30グラムで9パーセント上昇)、と報告されています。世界がん研究基金と米国がん研究協会の報告書は赤肉は調理後の重量で週500グラム以内(加工肉はできるだけ食べないように)と勧告しています。 
 

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 では、なぜそれほど深刻に考える必要はないのか。それは日本人の赤肉摂取量が、欧米とは比較にならないほど少ないからです。2013年の国民健康・栄養調査報告では、成人平均は生重量で62グラム(うち加工肉13グラム)に過ぎません。調理で20パーセントほど軽くなることを考えると、日本人の大半は、欧米が勧告する摂取量を超えていません。つまり赤肉や加工肉ががんのリスクを高める可能性は高いものの、多くの日本人はリスクを負うほど食べていないのです。 
 
 逆に、赤肉をまったく摂らないと問題も生じます。赤肉に含まれる飽和脂肪酸はコレステロールを作り、血管の重要な構成成分になります。コレステロール過多は動脈硬化のリスクを高めますが、少なすぎると脳出血の要因になるのです。多目的コホート研究では、脳卒中や心筋梗塞の発症リスクが低いのは、飽和脂肪酸摂取量が一日20グラム(牛乳を毎日200グラムと肉類を二日に150グラム)程度のグループでした。 
 
 また、赤肉には感染への抵抗力を上げる作用があることも指摘されています。 
 
 現状では日本人がそれほど神経質になる必要はありません。赤肉も一日80グラム程度までなら、健康的な食品と言えます。