救われたかもしれない命が――。

 昨年6月7日夜11時頃、東京メトロ八丁堀駅の多機能トイレ内で男性客が倒れているのが見つかった。

 メトロ関係者が語る。

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「4、50代と見られる男性が横たわっていた」

「多機能トイレは在室が30分以上になると、使用中を示す青いランプが点滅します。ランプが点滅し続けていることに気付いた駅員が警備員と共にトイレの扉を開錠したところ、4、50代と見られる男性が横たわっていたのです」

 警察と消防に通報がなされた後、その場で救命措置がとられたという。

「しかし、救急搬送された病院で死亡が確認されました」(同前)

 後に警察などの調べで分かったのは、この男性がトイレ内にある非常ボタンを押した形跡があったということ。さらに、

「駅構内の防犯カメラを確認したところ、男性が夕方4時頃にトイレに入室してから発見されるまで、約7時間も経過していたことが分かりました」(同前)

画像はイメージです ©istock.com

 なぜ、男性のSOSは駅員に届かないまま放置されたのか。その原因は二つある。

「一つ目は、非常ボタンを作動させるブレーカーの問題です。通常、非常ボタンを押せば駅事務室の警報が鳴動し、すぐに駅員がトイレに駆け付けますが、八丁堀駅は何故か非常ボタンのブレーカーが切られていたのです」(同前)

 二つ目の問題も深刻だ。

「多機能トイレは、非常ボタンが押されなくても在室が30分を超えると、信号ケーブルを通じて駅事務室に警報が届くようになっている。ところが八丁堀駅は、このケーブルも繋がれておらず、まるで機能していなかったのです」(同前)

 安全を巡る“二つの怠慢”。東京メトロは事実関係を認めた上で、主に以下のように回答した。

「(トイレの)工事完成後に機能確認試験が行われていなかったこと、本体機能確認試験で確認漏れがないようにするチェックリストが無かったこと、定期的な動作確認が行われていなかったことが原因です。これを受け、緊急点検として、全箇所の非常ボタンのブレーカー及び信号ケーブルについて確認しております」

 信号ケーブルが繋がれており、非常ボタンも稼働していれば、この男性は命を落とさなかった可能性がある。今回の経緯を遺族に説明したのか訊ねると、

「ご遺族の連絡先を把握しておらず、お伝えしておりません」(同前)

 では、なぜ事故を発表していないのか。