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震災で言葉と表情を失った少年
……そして、5年の月日が流れた。多聞はガリガリの状態で熊本の山中に現われた。多聞を拾った内田は、マイクロチップから多聞が釜石で飼われていたことを知り、不思議な縁を感じる。
内田も釜石出身で、津波で家や仕事を失い、一家で熊本に移住してきたのだった。家には、震災のショックで言葉と表情を失った息子の光がいた。
多聞と光は、初対面とは思えないほど打ち解け合う。光は笑顔を取り戻し、少しずつ言葉を話すようになる。調べてみると震災前、光と多聞は釜石でつながりがあった。ところが、津波が両者を引き離してしまったのだ。
「多聞、お前は光を探して5年も旅を続けてきたのか……」
しかし、平穏な日々は長くは続かない。2016年4月14日、熊本を大きな揺れが襲う……。
家族のために犯罪に手を染めた男、外国人窃盗団のリーダー、男に貢ぐ風俗嬢、死期を悟った老猟師、震災で心を閉ざした少年……旅の途中で多聞が遭遇したのは、傷つき、悩み、惑う人々だった。
彼ら彼女らは、多聞によって心を洗われ、勇気と愛をもらっていた。東北から本州を縦断、ひたすら南西へと向かった多聞が、最後に見つけた“目的地”とは――。
続きは、文春オンライン連載でお楽しみください。最終回は3月19日(土)に公開されます。連載をまとめた単行本は6月下旬に発売予定です。